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みづ鍼灸室 by 未津良子(症例集) |
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症例17・腰痛 2改
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症例17・腰痛 2改 |
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鍼灸で背骨の矯正 |
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背骨の形状と腰痛は関係が深い |
正しい脊柱を横からみると、前後にゆるやかなカーブを描き、頭の重みを分散するようになっています。
でも、骨標本のような完璧な脊柱をしている人はめったにいません。
首から腰まで背骨がまっすぐな人。部分的にまっすぐな人。前方に出っぱるべきところが後方に、あるいは逆にと、間違った方向にカーブしている人。
人それぞれ、さまざまな形状をしています。
背骨の形が悪いと、身体の各部にかかる負担が大きくなります。
腰痛、ぎっくり腰、脊柱管狭窄症、ヘルニア、坐骨神経痛や、頚椎由来の、首・肩こり、頚椎症など、いろいろな不具合をおこしやすくなります。
前述したように、脊柱を形作っているのは、支えている筋肉です。
鍼灸は、腰痛の主症状を改善させるだけでなく、脊柱の矯正をすることで、腰痛を起こしにくくさせることができます。 |
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背骨の形は遺伝する |
いろいろな家族の治療をしていると、「お父さんとそっくりの背中」というふうに、背骨の形が代々受け継がれていることがわかります。
祖母→母→息子と、背骨の形がそっくりという家族もいます。半々ぐらいの確率で遺伝するようです。
背骨の形状は遺伝的要素が大きいのです。
日本人に「まっすぐ」な背骨が多いというのは、世界的に有名だそうです。
昔は、「西洋人には肩こりはない」と言われていました。
サンフランシスコに引っ越してから頚椎症になったAさんは、医師にストレート・ネックを指摘され、「日本人特有の病気」と言われたそうです。
鍼灸は中国伝来ですが、日本で進化をつづけ、広く庶民にまで浸透しています。
温泉療法が日常的に行われているように、古来から日本人は肩こりや腰痛に悩まされてきたのです。
背骨の形の悪い祖先がこぞって日本列島に上陸したのでしょうか。
数年前から、「着物」が原因かもしれないと思うようになりました。
着物姿は背骨がまっすぐなほど美しいですし、「背筋がまっすぐ」だと人間性も正しく高潔に見えます。
背骨がまっすぐな人間が好まれて選ばれて、より多くの子孫を残したと思われます。 |
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仕事による後天的な変形 |
重労働に従事している人、同じ動作をくり返す仕事の人など、仕事の関係で、後天的に背骨の変形が起こることもあります。
一日中パソコンに向かっている人、下を向いて書き物をつづける人は、首や背中が前方に曲がっていきます。一日中重いものを持つ人は、腰が縮んで曲がっていきます。
大学の先生で、背骨が螺旋階段のように曲がっている人を、何人か治療しました。
正面にいる学生のほうを見ながら、右手で黒板をさして授業をするせいです。
自分の動作を観察して、たとえば左手で黒板をさすなど、逆の動作を取り入れるようにアドバイスしています。 |
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スポーツや怪我による変形 |
激しいスポーツのせいで、背骨が変形する場合もあります。
ゴルフはいつも同じ方向にクラブを振ります。しかも、止まっているボールを思いっきり飛ばすので、変形による障害がおこりやすくなります。
ゴルフの上手な頚椎症の患者さんが、「ゴルフのプロはみんな頚椎症なんですって。左で打つ練習もしているそうですよ」と教えてくれました。
私がテニス肘のとき、左手だけで壁打ちをしたあと、ぎっくり腰になったりしました。
一年もの間、重いものはすべて左手で持っていたので、いつのまにか骨盤の高さが違ってしまいました。
今は必ず左右両方で打って、バランスをとるようにしています。
捻挫、肉離れ、ひざ痛などの故障がきっかけで、脊柱が曲がってしまった患者さんがたくさんいます。
自分の動作の癖をチェックしてみましょう。
スポーツをするときだけじゃなく、日常動作のすべてを左右対称にすることで、左右の歪みを矯正することができます。 |
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加齢による変形 |
正しい背骨を持って生まれた人でも、加齢によって変形がはじまっていきます。
筋肉の主な働きは「収縮」です。
筋肉の付着部は「起始」と「停止」と呼び、縮むことによって両端を近づけ、関節などを動かします。
ノーメンテで収縮を重ねると、筋肉はだんだん縮んでいきます。
年齢と共に身長が縮んでいくのは、背骨を構成している椎骨と椎骨をつないでいる筋肉が縮んでしまうのが原因です。
筋肉には、縮みやすい筋肉と縮みにくい筋肉があります。
上腕二頭筋は、裏側の上腕三頭筋より縮みやすく、大腿二頭筋(ハムストリングス)は、前面の大腿四頭筋より縮みやすい、という特徴があります。
腰が縮み、背中が曲がり、首が前にたおれて猫背になる。腕は肘が曲がったままになり、足は膝が曲がってがに股になる。そんなお年寄り特有の体形は、筋肉の性質からきているのです。
昔は、農家の人など、腰が曲がったお年寄りをよく見かけました。
筋肉が硬直すると、支持している骨に大きな負荷がかかります。限界を越えると、椎骨の圧迫骨折をおこします。
硬直した筋肉が脆くなった骨を折る(=圧迫骨折)をくり返して、背骨が曲がってしまうのです。 |
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鍼灸で脊柱の矯正 |
先天的な背骨の形状に、仕事、習慣、スポーツ、怪我などによる背骨の変形が加わって、最後に老化による変形がすすんでいく・・・というのは悲しい現実ですが、その対抗手段のひとつが鍼灸治療です。
最初に仰向けになってもらい、経絡治療を行います。
手足の要穴をつかって経絡のバランスを調整すると、全身のゆがみの矯正ができます。
風圧や放水で大掃除をするようなもので、ちょっとした不具合は流れて行ってくれます。
硬直がひどい筋肉には、深く鍼を打ってこりをほぐします。
次にうつ伏せに寝てもらいます。今年から治療法を変えました。
FT(フィンガーテスト)を使って歪みのポイントを探し、脊柱の中央に深いハリを打ちます。
脊柱の両側を中心に、あちらこちらの硬直した部位にも鍼を打ってしばらく置鍼します。
最後に残った頑固なこりは、鍼でひとつひとつ取りのぞきます。
たいていはそれでOKなのですが、それでも取れないこりにはお灸や手技をプラスします。
手技はリスクを伴うので要注意です。
筋肉の硬直をそのままに、強い圧をかけてしまうと、逆に痛みが出てしまうことがあり、最悪の場合は骨折などの危険もあります。
鍼灸は患部に物理的な圧力をかけずに、筋肉をやわらげることができます。
筋肉は「器」で、支えられている骨は「水」のようなもの。背骨を支えている筋肉たちの硬直をほぐすことで、脊柱の歪みを矯正できるのです。 |
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磁石を使って背骨の矯正 |
磁石を使っての矯正もできます。
脊柱の歪みの強いポイントの左右に、片側をN極、反対側をS極にして、磁石を2枚貼り、磁場をつくります。
セロテープなどで仮留めにして、左右を代えて、患者さんに首や身体を動かしてもらいます。
大股歩きで判断することもあります。足の上げやすさ、動かしやすさ、左右のバランスがいいほうを選んで貼ります。
私も目で確認し、2人の意見が一致してから貼ります。
1ヶ所に貼るだけで、首から腰まで、脊柱全体が矯正されます。
同じ場所だと痒くなってしまうので、毎回貼る位置を変えています。
6年半前から自分でも貼っていますが、ぎっくり腰や頚椎症になるのは、磁石が取れているタイミングなので、頼りになるアイテムです。 |
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脊柱側弯症の中学生 |
背骨が左右にゆがんでいるのが脊柱側弯症です。
2008年4月に来院したEさん(当時14歳)は、中三でバスケ部の女の子でした。
半年前から腰が痛くて、病院で脊柱側弯症と診断されたそうです。
激しい運動は避けるようにと言われて、体育も部活もずっと休んでいました。ついに痛みで歩けなくなり、学校に行けなくなったそうです。
小学生の頃からときどき、肩こり、腰痛、頭痛、便秘に悩まされたそうです。
胸椎から腰椎まで、脊柱の両側にボコボコと、こりの塊がありました。
右より左がひどく、左でん部、左太ももにも張りがありました。
うつ伏せでは、こりを中心に深いハリを打ち、他、手足も含めて、全身に浅いハリを打ちました。
子どもなので、様子を見ながら、ドーゼ(刺激量)を上げていきました。
透熱灸と糸状灸をし、残ったこりを単刺で取って、左でん部にはカマヤミニ、最後に磁石を貼りました。
痛みは2割に減りました。
翌日には腰の痛みが消え、バスケの練習を再開したそうです。
5回の治療でしたが、姿勢がよくなって、便秘も治り、2ヵ月後のバスケの試合にも出ることができました。 |
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若ければ完治は可能 |
Eさんは8年後の2016年5月、大学生のときに腰痛で来院しました。
その腰痛は1回で治ったのですが、脊柱の側弯はそのままだったのでとても気になっていました。
今年(2019年2月)、26歳の社会人になって、また腰痛で来院しました。
脊柱の側弯はすすんでいて、仙骨もゆがんでいました。まるで80代の老婆のような形状でした。
20代でちゃんと治療をすると、きれいに治って腰痛とは無縁の身体になれるという驚きを経験しているので、Eさんに定期的な治療をすすめました。
私も33歳からずっと鍼灸治療をしてもらいつづけ、そのおかげで猫背も治り、年を取るにつれてどんどん姿勢が良くなっています。
自分の身体に投資した結果です。
背骨の形が悪いために辛い思いをしてきたのですが、そのために年を取れば取るほど若返っていくという逆転現象が起こったのです。
隔週での治療をつづけて半年が経過したところですが、Eさんはやっと50代ぐらいの背中になってきました。
完治を目標にがんばっています。 |
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アンチ・エイジングには鍼灸+運動+ストレッチ |
若い人は筋肉が柔軟でエネルギーに満ち溢れています。鍼で「気」を動かして治療をしますが、「気=生体エネルギー」です。
具合が悪くて引きこもっていた子でも、治ったらじっとしていません。仕事に遊びにと、どんどん動き回ります。
年を取ったら治りにくいのは現実ですが、若い人を見習えばいいのです。
筋肉の柔軟性を取り戻すために「動いて、動いて、動きまくる」こと。ストレッチをして、関節可動域を広げていくこと。
自然に任せるのではなく、意識して習慣にすることです。
年を取っていてもそれなりに矯正は可能です。
脊柱管狭窄症で紹介したAさんも(たぶん)若い頃からの脊柱側弯症だったと思います。
59歳で脊柱管狭窄症を発症したときは、信じられないような歪んだ脊柱をしていました。
60代では隔週、70代になってからは毎週、治療をつづけて14年が経過して、現在73歳になりました。
途中から側弯がだんだん目立たない程度になっていき、年々改善されています。
でも鍼灸治療だけの効果ではありません。
ずっとテニスをつづけていますが、ちょっとさぼると筋肉がカチンカチンに固まってしまいますので、定期的な「運動」がいかに大切かという指標になります。
Aさんの勝因のひとつに「ストレッチ」があります。ストレッチをまったくやらなかった患者さんと比べると、背骨年齢に10歳以上の差が出ています。
1に運動、2にストレッチ、3に鍼灸治療、と思うぐらいのこの頃です。 |
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Updated: 2019/12/8 <初版 2003/7/9> |
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