dosei みづ鍼灸室 by 未津良子(症例集)
症例30・後縦靭帯骨化症 1改
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症例30・後縦靭帯骨化症 1改
末梢神経だけでなく、中枢神経障害も軽減した
改訂のお知らせ
以前に更新したものに、西洋医学的考察の間違いがあったので、書き直すことにしました。
はじめて後縦靭帯骨化症の患者さんが来たのは、2004年10月のことでした。
実は、私が学校に行っていた頃にはなかった病気で、発見されたのは数年前だそうです。

友人のお兄さんである、Sさん(当時52歳・男性)に電話で相談を受け、初めて聞く病名だけど、たぶん、鍼灸をすると、首や肩が重くてつらい症状は、かなり軽くなるだろうと想像できました。

神奈川県在住なので、近くで通えるところを探した方がいいと勧めたのですが、首の治療は難しいし、やってみたけど悪化したということになれば、希望は閉ざされてしまいます。
最初の2・3回はうちに来てみたら、ということで治療をはじめました。
後縦靭帯骨化症とは
脊柱は1本の柱ではありません。
頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の、小さな椎骨が、靭帯や筋肉に支えられて、脊柱を形成しています。脊柱の中には、脊髄という中枢神経が通っています。

脊柱を縦方向に支えている後縦靭帯の骨化がすすみ、脊柱管内に増殖し、脊髄や脊髄から分岐する神経根を圧迫して起こるのが、後縦靭帯骨化症です。
そのほか、黄色靭帯・前縦靭帯が骨化することもあります。

西洋医学の解剖学や診断学は緻密で正確なので、CTMRIを撮れない鍼灸師にも、どこにどういう症状がでているかによって、脊柱のどのあたりに障害があるかがある程度推測できます。

患者さんから聞く話、医師からの情報を参考にして、障害のもとになっている部位と、身体や手足の症状の出ている部位の両方を治療します。
骨化症の症状
Sさんは、2003年4月に頚椎の後縦靭帯骨化症の手術をしました。
そのあと、排尿障害が起こり、胸椎の黄色靭帯の骨化が発見され、11月に胸椎の手術もしました。

Sさんの場合、手のしびれ、首の筋肉の緊張、こわばり、首が回せなくなる、肩の筋肉が硬くなって緊張する、首から腕が重くなる、握力が減る、手が動かしにくくなる、などの症状があったそうです。

来院時には、毎日何時間も「横になっているしかない」状態でした。
上記の症状の他に、足のしびれ、足の動きが悪い、歩いていて腿が上がらなくなる、背中が張る、座っていられない、などの症状も起こっていました。
同時に2つの動作を行うこと(箸を持ったままお皿を持つ、財布から小銭を出す)などの、複雑な動作が難しくなっていました。
手術したあとでも症状が取れなかった
Sさんは、手術した直後は快調で、術後1ヶ月で仕事に戻れたのですが、思うように仕事ができず、結局、休職していました。
手術をした後、症状が舞い戻り、そのまま居座ってしまったのです。

1日中コンピューターに向かって設計図を描くのが仕事でした。
手の動きが悪く、思うようにマウスが動かせないし、首や肩が重くなってパンパンに張ってくるし、座っていることが苦痛になるそうです。

「手術は成功して、異常なし。これ以上、外科的にすることはない」と医師に言われたそうです。
リハビリでマッサージを受けていたのですが、揉み返しがひどくて、かえって苦しさが増したそうです。

鍼灸のことも考えたのですが、「鍼をすると悪化する」と医師に止められていたそうです。
Sさん自身、以前、寝違えのときに鍼治療を受けて、逆に首が全く動かせなくなったという経験もありました。
気の流れが身体を掃除する
後縦靭帯骨化症の鍼灸治療は、頚椎症脊柱管狭窄症とほとんど同じです。
患者さんによって、治療の部位が異なるだけです。

脊柱のそばの圧迫感、首・肩・背中の筋肉のコリと、神経根が圧迫されて起こる様々な神経症状(手や足)の治療をします。

最初に、仰向けで全身に浅い鍼を打って置鍼するのですが、「どんどん楽になっていくのが分かる」とSさんは言いました。
パンパンになっている身体が、気の流れを促すことで、澄んでいくのです。

次にうつ伏せになってもらい、一般的な鍼灸治療のあと、首に単刺(深く刺しては抜く)をし、透熱灸をしました。
最後に背骨の矯正の磁石を貼りました。

初回治療後、首の重さが軽くなった。
指の動きが少しスムーズになった。
背中とお尻にクッションを当てないと座っていられなかったのが、普通に座っていられるようになった。
立ったままで靴が履けた。・・・などと、驚いていました。
骨化症の鍼灸治療
鍼灸はバランス療法なので、具合が悪いときほど感激も大きいのです。はじめの治療が想像以上に効果的だったので、Sさんは鍼灸治療にかけてみようという気になりました。

それから後は、ぶり返しては楽になる、の繰り返しです。良くなるごとに神経の閾値が下がるせいもあります。
結局、Sさんはうちに通い続け、初めの1ヶ月は週に3回、2ヶ月目からは週に2回のペースで通院しました。

究極の頚椎症のNさんの治療の時には、私も病気になりそうなほど悩んだのですが、そのおかげで、大体のマニュアルが頭の中に出来上がっています。
いろいろな治療テクを、あせらず、順に試していく計画を立てました。
住んでる所が遠いので、家庭でも、奥さんに毎日カマヤミニでお灸をしてもらうようにしました。
まず、日常生活が送れるようになった
治療開始して3ヶ月が過ぎた頃、みんなでボーリング大会をしました。
3ゲームやって、Sさんのアベレージは100点そこそこ。ボールをリリースするときに、指が穴に引っかかってうまく抜けないのだそうです。昔はアベレージ150以上を出していたそうです。

そのあとの飲み会でべろんべろんに酔っ払ったのですが、それでも、次の日は(二日酔いと)筋肉痛になっただけで、つらい神経症状は戻りませんでした。

すっかり自信を取り戻したSさんは、仕事復帰を決めました。
でも、日常生活を送るのと、仕事に耐えられるかどうかは別の問題です。
担当医も喜んでくれた
職場復帰にあたって、Sさんが担当の医師に相談したところ、「あなたはすでに治っているので、何でもできるはずです」と言われたそうです。
つらい症状が消えて元気になれたSさんのことを喜んでくれ、「そんなに効くなら、他の患者さんにも紹介したい」とも言われたそうです。

後縦靭帯骨化症は難病に認定されています。
医師としても、手術後の患者さんの体調を、何とか良くしてあげたいとの思いがあるのでしょう。

Sさんは、職場の上司にも恵まれていました。
相談に見えたとき、私が「仕事の量を減らし、治療に通う時間を確保しながら、職場に復帰することは可能ですか?」と聞いたら、「そのような配慮は可能です」と答えてくれました。

でも、「そんなにあわてなくても、まだ7月までは休職できるのだから、もう少し休んで、暖かくなってからにしたらどうか?」と勧めてくれました。
職場に復帰してみたけど
私としては、体が慣れるまで最低週2回、治療を続けながらなら、なんとかなるかも、と思ったのですが、いざ仕事を始めてみると、思うように治療に来られません。

午後の3時くらいになると、座っているのが苦痛になり、手の動きも悪くなって、マウスが動かしにくくなるそうです。

結局、Sさんは仕事を辞めました。
早めの引退ですが、田舎に帰って、実家の農業でも手伝いながら、夫婦でのんびり「スローライフ」もいいんじゃないかと考え始めました。お子さんもいないし、お金も稼いだし、幸いに、奥さんとは同郷です。
企業戦士から離脱して、しばらく休んでいた間に、「仕事に意義を見出せなくなってしまった」そうです。
動くことの治療効果
Sさんは、会社を辞めるかどうかの決心をする前に、農作業という重労働に、自分がどこまで耐えられるか試してみることにしました。

5月の連休から1ヶ月ほど、田舎で、田植えなど農業を手伝ってみたのです。適度に身体を動かす仕事なら、ほとんど不都合がなくなっていることが分かりました。
近所の人が、元気に農作業にいそしむSさんを見て、「病気になって戻ってきたと聞いたけど、どこが悪いんだ?」と首をかしげたそうです。

農業して1ヵ月後に治療に来たSさんは、首・肩・背中の重みも取れ、手足のしびれもなく、前回の治療時より健康体になっていました。

つまり、ある程度のレベルまで治療をすれば、あとは「動くことが、一番の治療効果である」ということが言えるでしょう。
Sさんは、神奈川県内のマンションを売って、田舎に引っ越してしまいました。
共同運動障害
当時、Sさんは「完治」とはいえませんでした。最初から予測していたとおり、「複雑な動作が難しい」という症状が残っているからです。

あるひとつの動作をするためには、いろいろの筋肉が、ひとつの目的のために一致団結しなくてはなりません。

例えば、ひじを曲げるときには、上腕二頭筋が収縮するのですが、裏側にある上腕三頭筋は逆に緩んで伸びなければなりません。
肘のまわりのその他の筋肉たちも、その動作に合わせて、伸縮加減を調節しなければなりません。
肘を曲げるときに、体のバランスが崩れないように、全身の筋肉も共同作業に参加します。

それをコントロールしているのは脳です。一瞬のうちに、それぞれの筋肉に命令を出すのです。

Sさんの場合、靴の紐が結びにくくなった、というのが最初の症状でした。
脳や脊髄が傷害されると、コントロールがうまくいかなくなり、マウスを動かす動作などにも影響がでてしまいます。
自分の病気はもう治らないと、Sさんは覚悟を決めたのです。
ほぼ完治し、仕事に復帰できた
田舎に引っ込んだSさんには、体調が良くなったにもかかわらず、仕事が見つかりません。
実家の農作業の手伝いも、本当に忙しい時期以外は、やることがありません。

結局、1年後には、こっちの方での仕事を見つけ、ウィークリー・マンションを借りての単身赴任暮らしです。建設現場で働き、キャドなどマウスの作業もこなしているそうです。

去年は5回ほど、鍼灸治療を受けにやってきました。
おもに首、肩、背中の重みのためです。
12月、突然寒くなったある日、また手足のしびれ、尿がでにくくなったということで、あわてて治療にやってきました。
「またあの症状がでたら、仕事をやめて田舎に帰らなきゃ」と、あせったのですが、なんとか大丈夫になりました。

妹さんに、「何で、急いでマンションを売っちゃったの?」と聞かれ、「自分は難病だから、まさか、こんなに治ると思わなかった」と答えたそうです。
マイクル・クライトン
「ジュラシック・パーク」や「ER・緊急救命室」の作者である、マイクル・クライトンが、自伝的エッセイ「インナー・トラヴェルズ」の中で言っていました。
彼はハーバード・メディカル・スクールを卒業した医学博士でもあります。

インターンをしていた頃、患者さんの問診をするときに、不思議なことを発見したそうです。

交通事故を起こした人に、「原因は?」と尋ねると、「ブレーキの操作を誤った」などと言うかわりに、「最近仕事が忙しくて」とか、「人間関係で悩んでいた」などと答えるのだそうです。
癌やその他の病気の人も、同じような答え方をするのです。

「人は、病気や事故の原因を、心の状態と関連していると考えている」ということが、大きな驚きだったそうです。
クライトンは、東洋医学的発見をしたということになります。
(最近では、心療内科なども現れていますが・・・)

東洋医学では、「病は気から」という大前提があります。
内因は心の状態。外因は暑さ・寒さなどの自然環境。その他のさまざまな原因は、不内外因(内因でも外因でもない、その他の原因)と考えるからです。
症例10「風邪・3 病因論」参照>
内因を考える
東洋医学的にSさんの病気の原因を考えてみましょう。内因というのは、心理学的な病因です。
Sさんは、若い頃からずっと、アルジェリアなど、海外で仕事をしていました。その頃は、楽しくのびのびと暮らしていたそうです。
日本に帰ってきて、本社で働くことになり、だんだん鬱々としてきたそうです。

骨化症になる前、首が重いとか、手足が軽くしびれるとか、やる気が出ないなどの不定愁訴があったそうです。自律神経失調症と診断され、抗不安剤を処方されたりもしたそうです。
つまり、人生の迷い道に入り込んでいたのでした。

その頃に、鍼灸治療と出会って、首・肩のこりや自律神経失調症の治療をしておけば、後縦靭帯骨化症にならずにすんだ可能性もあります。
中枢神経障害も改善された
Sさんの治療をしながら不思議に思ったのは、中枢神経障害である共同運動の障害が、鍼灸治療によって改善されることです。

最初の頃、治療前には難しい複雑な動作(バッグから財布を取り出して、そこから診察券を抜き出す、等)が、治療の直後は、少しスムーズにできるようになります。
ぶり返しながらも、だんだんよくなっていきます。
完治はしていないと思いますが、症状が「ほとんど気にならない」、あるいは「生活するのにさしさわりがない」程度になったことです。

脳梗塞の後遺症、脊髄損傷、パーキンソン病などの、中枢神経障害の場合は、鍼灸で、麻痺やしびれ、知覚異常、運動障害などが、「改善された」という手ごたえを感じたことはありません。
もっとも、Sさんのように気合を入れて治療した経験がないので、断定はできませんが。

後縦靭帯骨化症に関しては、発見されて間もない病気なので、病気の原因、治療法、予後については、まだよくわかっていないようです。
2ページ目へつづく
Updated: 2007/4/1