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みづ鍼灸室 by 未津良子(症例集) |
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症例46・手根管症候群
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症例46・手根管症候群 |
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腱鞘炎からくる正中神経障害 |
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手根管の中で正中神経が圧迫される |
前腕の橈骨と手根骨が手首の関節をつくっています。手根骨から手の平をつくる中手骨がつながり、中手骨から指の骨がつながっています。
手根骨は豆状骨など、サイコロ状の8個の小骨の集まりで、4個ずつ並んで靭帯で結ばれて固定されています。手の平側は凹、甲側は凸の、アーチ型をしています。
<イラストは右手です。おおざっぱなので、おおよその目安にしてください> |
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手首の内側は幅2~3cmの屈筋支帯(■)が手の平側の凹をおおっています。その隙間が手根管(■)で、狭いスペースに正中神経(■)、血管、前腕から指につながる筋肉の腱がひしめいています。 |
手根管を通る筋肉の腱 |
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腱鞘炎の原因になりやすい筋肉 |
手根管(■)には浅指屈筋(■x4)、深指屈筋(■x4)、長母指屈筋(■x1)の合計9本の腱と、すぐそばに橈側手根屈筋(■)の腱も通っています。 |
腱鞘炎をおこす筋肉 |
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長母指屈筋 |
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浅指屈筋 |
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深指屈筋 |
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橈側手根屈筋 |
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尺側手根屈筋 |
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<手根管の中を通る筋肉> |
長母指屈筋 |
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浅指屈筋 |
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深指屈筋 |
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<手根管のそばを通る筋肉> |
橈側手根屈筋 |
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尺側手根屈筋 |
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上腕骨内果 |
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上腕骨外果 |
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これらの腱は腱鞘(■)につつまれているので、摩擦が少なく、円滑に動くことができます。手を過度に使って「腱鞘」が炎症をおこして膨張すると、正中神経(■)が圧迫されることがあります。
痛み、腫れ、指が動かせないなどの腱鞘炎の症状のほか、知覚異常、麻痺などの神経症状がおこります。これを手根管症候群といいます。ほとんどが女性で、腱鞘の肥厚には、女性ホルモンの影響もあると言われています。
神経障害が長引くと、神経が変性を起こすことがあります。正中神経(■)が支配する母指球の筋肉が麻痺して、神経性委縮を起こしてしまいます。症例は後述してあります。 |
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急性の手根管症候群 |
多彩な愁訴に悩むTさん(当時35歳、女性)は、首・肩こり、腰痛、ひざ痛、めまい、胃の不調、子宮内膜症、過敏性大腸症候群など、毎回、治療のしどころ満載の女性です。
だいたい2週間に1回、定期的に治療をしていましたが、2012年3月のある日、予定を早めて、飛び入りでやってきました。
職場で、1日中、手書きで書類を書いているうちに、「右の人差し指が腱鞘炎になってしまい、曲げられなくなった」とのことでした。
人差し指がパンパンに腫れて、痛みで動かせなくなっていました。
人差し指全体と、親指と中指の人差し指に近い側に熱感があり、手を洗うときに水が当たると痛い、触っただけでビリビリ痛い、などの知覚過敏がありました。 |
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指と手根管、両方の治療が必要 |
『神経症状の発生源はどこだろう?』と思いながら、腱鞘炎の治療をしました。
ハリやお灸をし、井穴から邪気も抜いて、母指、示指、中指を中心に徹底的に治療しました。
とりあえず、腫れが引き、指が動かせるようになりました。翌日には、ペンが持てるようになったそうです。
次の来院時も、まだ違和感がつづいていたので、あれこれ本を調べて、手根管症候群であることに気がつきました。
手首の内側、手根管めがけての治療を加え、やっと違和感が消えました。
手根管内で、浅指屈筋(■)か深指屈筋(■)が腱鞘炎になって、示指が曲げられなくなったこと。正中神経(■)が腱鞘に圧迫されて、知覚異常がおこったこと。両方の治療が必要でした。
発症してすぐの治療だったので、3回の治療で治りました。 |
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母指球筋が萎縮 |
Eさん(当時60歳、女性)は、ひざ痛が主訴で、週に1回の定期治療をしていました。
「右手のしびれ、力が入らない」という悩みもあったのですが、10年ぐらい前からのことで、改善がみられず、そのままになっていました。 (→症例33「ひざ痛・2」に登場しています)
Tさんの治療をして、Tさんが手根管症候群であることに気づきました。深夜まで熱中して洋裁をしていたそうです。
子宮筋腫の既往歴もあったので、女性ホルモンとの関連もあるかもしれません。
発症から10年がたっていたので、Eさんの母指球筋(親指の根元のふくらみ)は、ペタンと薄い板のようになっていました。
母指を動かす筋肉が萎縮していたのです。 |
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OKサインが丸く作れない |
神経は、長い間圧迫がつづくと、変性をおこしてしまいます。
脳からの電気刺激(インパルス)が筋肉に伝わらなくなり、筋肉が動かせなくなります。
その結果、筋肉は廃用性萎縮をおこします。
Eさんは、手根管内で腱鞘が肥厚したために、正中神経(■)への圧迫がつづき、神経が麻痺し、その先にある母指対立筋(■)、短母指屈筋(■)、短母指外転筋(■)という母指球の筋肉が萎縮してしまったのです。
(母指球筋のうち、母指内転筋(■)だけは尺骨神経支配なので、親指を人差し指に近づけることができます。→巻末の表)
親指と人差し指で、OKサインを作るとき、丸い形になりません。それが病気の診断ポイントです。 |
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パルス治療が効果的 |
神経線維が変性を起こすと、もう元通りには戻りません。
でも、きちんと治療をすると、100%は無理でも、ある程度(50~70%?)は復活します。
脊柱管狭窄症でふくらはぎが萎縮した人へのパルス治療が効果があったので、Eさんにも試してみることにしました。
手根管の内部と、母指球の3つの筋肉、短母指外転筋(■)、短母指屈筋(■)、⑧母指対立筋 (■)を中心に、パルスをかけました。
ハリを深く刺して、電極をつなぎ、外部からの電気刺激で、筋肉を動かします。長い間眠っていたので、はじめは反応が鈍いのですが、だんだん動くようになります。
ハリのあとは、灸点紙を敷いての透熱灸をしました。
数回の治療の後、自動販売機にお金を入れるときに、コインを落とすことがなくなったそうです。
ちょっとずつですが、母指の動きがよくなっていきました。 |
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手根管症候群に関係する筋肉(表) |
A: 手根管をとおる筋肉 |
おもに、手首を曲げる(掌屈)、手を握る、指を曲げる、などの動作をします。 |
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筋肉 |
支配神経 |
働き |
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橈側手根屈筋 |
正中神経 |
手関節の屈曲、前腕の回内・外転(橈屈)の補助、肘関節屈曲の補助 |
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浅指屈筋 |
正中神経 |
第2~5指の屈曲、手関節・肘関節の屈曲の補助 |
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深指屈筋 |
橈骨半は正中神経/尺骨半は尺骨神経 |
第2~5指の屈曲 |
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長母指屈筋 |
正中神経 |
母指の屈曲 |
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B’:母指球筋 |
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正中神経支配なので
■■■が神経麻痺 |
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B”:母指内転筋 |
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尺骨神経支配なので
■は動かせる |
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B: 母指球筋 |
屈筋支帯の先にある母指を運かす筋肉 |
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筋肉 |
支配神経 |
働き |
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短母指外転筋 |
正中神経 |
母指の外転(手掌から遠ざける) |
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短母指屈筋 |
母指の基節の屈曲(母指の根元を曲げる) |
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母指対立筋 |
母指の対立運動(母指と小指をくっつける) |
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母指内転筋 |
尺骨神経 |
母指の内転(手掌に近づける、物を強く握る) |
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Updated: 2013/3/13 |
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