症例61・ムチウチ
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<発症直後ならすぐに治せる>
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発症すぐの1日は、10年後には数年になる
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開業して以来、「昔のムチウチ」の後遺症に悩まされている患者さんがあまりにも多いのに驚いたものでした。交通事故やスノーボードの転倒でムチウチになった人の治療を数えきれないほどやりましたが、直後ならみなさんすぐに治ってくれました。ムチウチは頸椎の「捻挫」です。骨折やビビなどの器質的疾患がないので、筋肉の「腫れ」を取り除く鍼灸治療に即効性があるのです。
発症から長い年月経過すると、硬直が首全体に及んでしまい、治るまでの道のりが長く困難になります。発症すぐの1日は、1年後には数ヶ月、10年後には数年、・・・そのぐらい差が出ます。
古いムチウチを抱えた患者さんの症例と、首の構造と特徴、治療の秘訣については、症例18「首・肩こり new 1」を参照してください。
ここでは発症直後のムチウチの患者さんの症例を紹介します。 |
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まず、患部の腫れ(炎症)を取りのぞく
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筋肉を酷使して起こった障害の場合は、筋肉の走行に沿って起こるので、解剖学や経験がツボ探しを助けてくれます。事故や転倒、打撲の治療の難しさは、あちこちに点在する障害部位の特定にあります。
外部からのいきなりの衝撃を受けて、ありえない角度に首が曲げられることになります。自然の動作と無関係に動かされるので、どこをどんなふうに傷めたのか、患部を見つけることが最重要課題です。
「首」という細い通路にはたくさんの筋肉が縦横に走行して、自由に動ける分、過剰な刺激に脆い構造をしています。患部に強刺激を与えると炎症が悪化する恐れがあるので用心しましょう。
衝撃を受けた部位は腫れて、ときには熱を持っています。物理的な刺激を加えないように軽く触ってツボを取ります。
「浅い鍼で炎症を取り除く」「炎症部位を糸状灸で取り囲む」などの手技で、まず炎症を落ち着かせます。
それから残った硬直をほぐします。筋肉への単刺はポイントを絞って行い、取り切れない硬直には糸状灸や透熱灸を追加します。 |
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首の「邪気」を手足に流す |
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首の「苦しさ」を取るためには手足の治療が必須です。経絡のバランスを調整し、首につながる筋肉の硬直をほぐし、手足に邪気を流すことで、あらかたの「苦しさ」を取ることができます。
患部だけを治療するのはドブの詰まりだけをつつくようなものです。やり過ぎると刺激過多になって増悪する恐れもあります。
「気」の流れる道筋を「経絡」というのですが、ほとんどが首を通過しています。手足にある「要穴」を使って経絡のバランスを調整します。
手足はストーブの煙突、車やバイクのマフラーのようなもので、詰まっていると首の「邪気」が流れていってくれません。煙突の煤を払ってあげれば、新鮮な「気」が滞った邪気を吹き流してくれるのです。
首だけでなく、腕や足や体幹など、間接的に衝撃を受け止めた部位を丹念に探して治療します。自分を守ろうとして身体が反射的に動くので、思わぬところに飛び火しています。身体のどこかに硬直があると「気」の流れが滞ります。時間をかけてポイントを探し、丁寧に治療しましょう。 |
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バイク:トラックとの接触事故
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1997年、バイク仲間のTさん(当時31歳、男性)から「交通事故で入院した」と連絡がありました。バイク便の仕事をしていて、配達中にトラックに接触して転倒したそうです。全身を打撲したそうですが、脳挫傷や骨折などはなく、ひどいムチウチで首が動かせなくなったとのことでした。
お見舞いに行ったら首にコルセットを巻いていました。持参の鍼で簡単な治療をしたら、とりあえず首が動かせるようになりました。
5日後、退院したその足で来院しました。かなり良くなっていたとはいえ、ムチウチがまだ残っていて「首が重い」とのことでした。
いつものように、まず仰向け、次にうつ伏せで治療したあと、最後に坐位で首に残った硬直部位に糸状灸を行ったら、そのままきれいに治ってくれました。 |
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スノーボード:宙返りで頭から落下
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長男がスノーボードでムチウチになったことがあります。事故は前日とのことでした。何(十)年も苦しんだ患者さんをたくさん見てきたので、今から来るようにと必死で説得しました。埼玉県在住なので本人は「動くのがつらい」と面倒臭がっていたのですが、嫁さんが心配して車で連れてきてくれたのです。
スノーボードはかなりの腕前だったとのこと。久しぶりだったので、宙返りをしたときに頭から雪面に落下したそうです。
うつむいたまま、首を動かすどころか、口をきくのもつらい状態でした。カルテがないので詳細は覚えていませんが、治療のあとは首が動かせるようになり、翌日にはかなり良くなったそうです。もう2回治療をして全快しました。 |
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スノーボード:初体験で転倒
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2008年に来院したMさん(当時24歳、女性)は、3日前にスノーボードで転倒して頭を打ったそうです。初体験だったせいか首のあちこちを痛めて、身動きもままならない状態でした。ベッドに横になれなかったので、坐位からはじめました。動けるようになるにつれて体位を変え、ちょっとずつ治療しました。
① |
坐位 |
首に浅い鍼と糸状灸 |
② |
うつ伏せ |
全身治療→首への単刺 |
③ |
仰向け |
全身治療+経絡治療→左側の耳の下と喉に単刺、透熱灸 |
④ |
うつ伏せ |
左の脊柱側の硬直に鍼 |
⑤ |
左上横向き |
左首に鍼と透熱灸 |
首に負荷をかけないように、慎重に、ちょっとずつ硬直をほぐしていきました。最後に「首を右に傾けるときに左首が痛い」症状が残ったので、反対側治療で右の申脈に銀粒を貼りました。
2回目は1週間後で、後頚部の硬直が残っていました。うつ伏せで患部に鍼と糸状灸をしただけで、きれいに治ってくれました。 |
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バイク:駐車中の車のドアに激突
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2002年12月、腰痛持ちでメンテナンスに来ていたNさん(当時56歳、男性)がバイクの事故でムチウチになったことがあります。細い道をスクーターで走行中に、前方で駐車していた車のドアが突然開いて、そこに激突したそうです。
保険屋さんに「鍼で治療したい」と言ったところ、「鍼は適用外」と断られたそうです。Nさんは腹を立て、「鍼をしなかったら治らない。この先長引いたら、1年でも2年でも、保険請求を続けるぞ!」と怒鳴ったそうです。保険屋さんが驚いて「10回までなら」と認めてくれたそうなのです。当時は交通事故の保険で鍼灸が適用されない時代だったのです。
ムチウチはすぐに治りました。メンテナンス10回分を保険でやる予定だったのですが、Nさんが「面倒だからもういいよ」と言うので、5回分の領収書を渡して終わりにしました。 |
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車:自転車を避けようとして電信柱に激突
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2016年に来院したYさん(当時58歳、女性)は、5日前、車を運転中に目の前に自転車に乗った子どもがいきなり飛び出してきたので、とっさにハンドルを切って電信柱に激突したそうです。胸と肋骨のあちこちを強打して、4日後(前日)にムチウチ症状が起こったそうです。
初回、仰向けの治療で肋間筋のあちこちに浅い鍼を打ち、次にうつ伏せで背面の治療、最後にもう一度仰向けになってもらい、肋間筋に透熱灸をしました。
ムチウチは1回目でほとんどよくなったのですが、強打した胸と肋骨周辺、かばって起こったあちこちの不具合のほうが難物でした。
2回目(4日後)、腰痛が起こったそうです。肋間筋には透熱灸をし、背骨の矯正の磁石治療を追加しました。 <治療法は→症例14「ぎっくり腰」の「磁石を使って背骨の矯正」で紹介しています>
6回目(1カ月後)には肋骨の痛みがなくなっていたのですが、代わりに、首・肩こり、左ギックリ首、腰痛などが次から次へとやって来ました。
8回(2カ月後)で終了して、保険請求の書類を書いてあげました。この頃には保険で鍼灸治療を認めてくれるようになったらしいです。 |
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*参考:肋骨周辺の治療に関係するページ |
症例22 |
五十肩 new 1
→「胸骨の損傷」 |
自転車で激突。ハンドルを押さえ込んだ衝撃で胸骨、肋間筋、大胸筋を傷めた |
症例49 |
ぎっくり肋間筋 |
ゴルフの打ちっぱなしで、背中と胸郭(肋間筋)を傷めた |
症例50 |
肋軟骨の障害 |
自転車で転んで、肋軟骨を傷めた |
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