症例14・ぎっくり腰 new 1 (2021)
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<急性(そして慢性の)筋肉性腰痛>
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筋肉の緊張=硬直をほぐして治す
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ぎっくり腰は「筋肉がギクッとなって」、そのまま「痛みで動けなくなる」という、急性の筋肉性腰痛のニックネームです。ぎっくり首(寝違え)、ぎっくり背中、ぎっくり肋間筋、ぎっくり尻など、「ぎっくり」はいろんな筋肉で起こります。
「何かを持ったとたん」とか「振り向いた拍子に」とか、いきなりやって来ることが多いのですが、崩れ落ちるようにジワジワと「ぎっくり」に移行することもあります。
動作と痛みの関連があきらかですが、重症の場合はじっとしていても痛むことがあります。問診と視診で症状をきちんと確認して、患部を推定しましょう。
*複合的に
起こる
↓
多いほど複雑 |
動作痛 |
静止時痛 |
*ちゃんと歩けない |
*前傾ができない |
*背中をそらせない |
*振り返れない |
*太ももを上げにくい |
*立ったまま靴下が履けない |
*腕を持ち上げるのが一苦労 |
*ちょっとの身動きもままならない |
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*立っていると痛む |
*坐っていると痛む |
*横たわっていると痛む |
(仰向けで) |
(横向きで) |
(うつ伏せで) |
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ぎっくり腰の治療は簡単です。筋肉の硬直を取ればいいので、たいていは1回で動けるようになります。「突然」と思っても、ほとんどの人が前兆=腰痛を感じています。年季を重ねるほど「こり」が重積するので、多数の筋肉の硬直が組み合わさるほど複雑なことになります。30代、40代で1回で治るものは、50代以上なら3回はかかる・・・と覚悟してください。
他の病気があるかどうかは治療しながら判別できます。単純な筋肉性腰痛ならみるみる快方に向かいます。
「痺れがあるかどうか?」を確認しましょう。「あちこちピリピリする」など、神経の走行とは無関係な痺れのときは、筋肉が硬直して神経を圧迫しているせいでしょう。
もしも坐骨神経に沿って痺れがあったら、坐骨神経痛かもしれないし、脊柱管狭窄症が絡んでいるかもしれません。筋肉と同時に神経も治療しましょう。
3時間ぐらいで治療前とまったく同じ痛みが戻るときは、ヒビや骨折、椎間板ヘルニアなどの可能性があります。
現在はかなりのベテランになったので、ほとんど鍼だけで治していますが、ときどきお灸を追加することもあります。昔はお灸や磁石や金粒・銀粒などをあれこれ組み合わせ、いろんな小技を使って治療しました。
急性「ぎっくり腰」が落ち着いたあとも、慢性腰痛が残る場合があります。後半では、いろんなタイプの筋肉性腰痛に対応するいろんな治療法を紹介します。 |
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筋肉の「冷え」に「寒」が入って起こる
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西洋医学的には「筋炎・筋膜炎」と言われています。「炎症」ときくと「熱を持っている」ように感じてしまいますが、「冷え」が原因です。東洋医学的には「筋肉に寒が入って起こる」といわれています。
筋肉がこると、内部の血管が圧迫され、血流が悪くなります。疲労物質が代謝されなくなるので、ますます筋肉が硬直していくという悪循環になります。新鮮な血液は温かいのですが、滞って古くなると冷えてしまいます。
筋肉たちはみんなで共同運動をしています。腰を動かす筋肉は、首から、上腕から、背中から、腹部からつながり、そして骨盤内外の筋肉から足へとつながっています。筋肉が1本でも硬直すると、可動域が狭まって動きが悪くなり、あちこちの筋肉に硬直が波及していきます。
ぎっくり腰は、冷えて固まった筋肉の複合障害です。「動きが悪い」「腰が重い」などの前駆症状をそのまま放置した結果、ついには「ぎっくり」来て、まったく動かせなくなってしまうのです。
気候や気圧の変動とも関係があります。台風の去ったあと、寒暖の差が激しいときなど、ぎっくり腰の患者さんが多発します。(ちなみに、寒いときには下半身のぎっくり腰などが多発し、温かいときには上半身の寝違えなどが多発します)
疲労が重なって硬直して「冷え」た筋肉に、外部からの「冷え」が侵入して起こるのが「ぎっくり腰」なので、患部を温めて治しましょう。 |
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背骨がまっすぐだと不具合を起こしやすい |
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ぎっくり腰になりやすいかどうかは脊柱の形状と関係があります。
脊柱の形が正しいと、頭部の重みや、体幹への荷重を、スラロームで逃がすことができます。 直立したときに、顎をあげて頭をそびやかします。背中は外にゆるやかなカーブを描き、胸を張ることができます。腰で前方にカーブし、ウェストにくぼみを作ったあと、お尻は後方に張り出します。
何度もぎっくり腰をくり返す人、メンテナンスに訪れる人は、みなさん背骨がまっすぐです。昔は「先祖が武士だったの?」ときいたほどです。今では着物文化の影響と思っていますが、日本人には背骨がまっすぐな人が多いのです。
背骨の形が悪いと、身体の各部にかかる負担が大きくなります。ぎっくり腰、腰痛、脊柱管狭窄症、ヘルニア、坐骨神経痛や、頚椎由来の、首・肩こり、頚椎症など、いろいろな不具合をおこしやすくなってしまいます。脊柱の矯正は必須です。
<→症例17「腰痛・2改: 鍼灸で背骨の矯正」に詳しく説明してあります> |
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腰痛の震源地はTゾーン
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鍼灸学校では、ぎっくり腰の患者さんには「患部に鍼を打ってはならない」と教わりました。硬直した患部は「実」の極みにあるので、そこに鍼を打つと「より実」になる、というのが理由のようです。指圧で腰をもまれすぎて、まったく動けなくなった患者さんの家に呼ばれたこともあります。
駆け出しの頃は、患部には浅い鍼だけでとどめ、糸状灸で患部の「実」を取り、手足に流すようにしていました。炎症を取りながら、状態を見て鍼を追加しました。
1回目の治療でとりあえず動けるようにして、2回目であちこちの硬直を取り、3回目で残った硬直を一掃、という手順でした。
そのうち患部の硬直を鍼で取り除いたほうが早く治ることに気がつきました。使用する鍼は(太くても)3番鍼までという細さであること、患部に打つ鍼の本数がそれほど多くないことと関係しているのかもしれませんが・・・
駆け出しの頃は、患者さんが「一番痛い」と訴える部位に重点をおきました。逃げる痛みを追いかけて治療すると、最後はみなさん、腰の「Tゾーン」の硬直が残ります。初回からTゾーンの硬直を取ると、ほとんどの人が1回で治ってくれるのです。
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私が「Tゾーン」と名づけたのは、腰椎と骨盤が連結される部位です。
圧力が集約されるので、 の治療は必須です。 |
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男性 |
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腰椎に圧がかかる |
女性 |
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骨盤に圧がかかる |
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「Tゾーン」は腰の要です。体重を支えるときにも様々の動作のときにも、腰椎と骨盤の連結部位に一番の圧がかかります。 は老化がはじまるポイントのひとつです。
男性は体幹と骨盤の大きさが同じなので、腰痛は腰椎で起こります。男性ででん部に硬直がある人は、全員が坐骨神経痛や脊柱管狭窄症などの腰椎由来の神経症状が原因でした。男性の老化は腰椎からはじまるのです。
女性は骨盤が広いために、男性とは別次元の負荷がかかります。女性の腰痛ではでん部の治療が必須です。骨盤内外の筋肉が硬直すると、股関節の可動域が狭まります。大腿骨が自由に動かせなくなって、足が前に出にくくなります。女性の老化は骨盤からはじまるのです。 |
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治療のコツはツボ探し
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鍼灸治療の極意は「ツボを見つける」ことにあります。新宿や渋谷など、いろんな路線が乗り入れている大きな「駅」を探します。複数の経絡や筋肉に連結している「駅」に鍼を打てば、1本でいろんな路線を同時に治療できます。
生物には「気」という生体エネルギーがあって、全身を縦横に走行する経絡上を走行しています。経穴(ツボ)は「気」の溜まる場所です。「気」のプールに鍼を打つと、梃子の原理で「気」を大きく動かすことができます。
骨格筋も連結されて共同運動をしています。いくつかの筋肉を同時に治療できる「駅」を見つけましょう。大きな筋肉に数本の鍼を並べて打つこともあります。大きくて強力な筋肉の硬直をほぐすと、関連する小さい筋肉たちは「動く」ことで自然に治っていきます。
指圧などは「面」で治療できますが、鍼は「点」で治療します。1ミリでもずれたら隣の駅、もっとずれたらその辺の街角です。やたらめったらに鍼を打つと刺激過剰になってしまいます。打たなければ治らないのですが、打ちすぎると悪化します。
初心者の頃はそこら中を押しまくって「ツボ」を探しました。重症の患者さんだと「ツボ探し」だけで30分以上かかることもありました。体表から触れないところや、グイッと押せない部位はFT(フィンガーテスト)を使います。
患者さんひとりひとり治療すべきツボはまったく異なります。骨格の形状によって負荷のかかりやすい筋肉が異なります。仕事や趣味、性別、年齢によっても異なります。同じ人が別のタイプのぎっくり腰になることもあります。
腰でん部のこりは深いので、グイーッと押して、丹念に丁寧にツボを取りましょう。ツボさえ正確に取れれば治療は簡単です。(首の治療をするときは押さずにツボを取ります。押しすぎるとムチウチのようになって、かえって悪化する危険があります)
開業10年を過ぎたあたりで、突然、ツボが目に見えるようになりました。自分の判断でツボが取れるので、今ではとてもスムーズに治療ができるようになりました。
まずは職人仕事です。がんばってツボを探しましょう。 |
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バランスを考えて治療する
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腰の治療は必須ですが、患部だけを治療しても治りません。バランスが大切です。裸(パンツ一丁)になった患者さんの身体はキャンパスです。細部にこだわりながら、あっちに花を、こっちに枝をと、全体としてのバランスを取りながら、一枚の絵を完成させるようなもの。鍼はアート(芸術)で、鍼灸師はアーティストなのです。
重要なのは「経絡のバランス」です。私は仰向けの治療からはじめ、経絡治療=全身を巡る「気」の通り道である十二経絡のバランスを調整します。浅い鍼で「気」を動かすだけで、あらかたの澱み(硬直)を流し、ゆるんでいるところに力を与えることができます。「気」の風圧で身体の大掃除をするようなものです。
経絡治療は手足にある「要穴」をつかって行います。経絡治療学会では、脈診で「証」を定めて鍼を打つパターンが体系化されていますが、私の頭はロジカル過ぎるし、直感も邪魔をするので、落ちこぼれました。
私の経絡治療は「十二経絡のすべて、手足の要穴のどこかに1本浅い鍼を打つ」というもので、安全で一定の効果があります。患者さんの自然治癒力で自動的に経絡を調整してくれます。病は「陽から入って陰に留まる」ので、慢性の病には陰経の要穴が効果的です。
手足はバイクのマフラーやストーブの煙突の役割をしています。手足に硬直があると「気」の流れが渋滞を起こします。患部の硬直だけをいくら治療しても、逃げ道を作らないと「邪気」が流れていってくれません。
全身の筋肉のバランスも大切です。例えば、右半身が硬直して痛みが強いとき、両側を同じようにほぐすと、やっぱり右半身はつらいままです。右の硬直をきれいに取って、左をちょっとだけ残しておく。一番の愁訴が消えると、患者さんは「とても楽になった」と感じてくれるのです。
意識と無意識のバランスも大切です。頭で覚えた解剖学や経絡の知識と、潜在意識が語りかける直感と、鍼灸治療には両方のバランスが必要です。
鍼は「どうやったら治るか」を身体に教えるコーチです。一度にたくさんのアドバイスをしすぎると、身体は混乱してしまいます。最重要ポイントに焦点を当てながら、どうやったら試合に勝てるか、「つぼを心得た」アドバイスをしてあげましょう。 |
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スムーズに動けるか確認して、追加治療をする |
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経絡治療をし、手足のこりをほぐします。体幹には置鍼をしてから、残った硬直を単刺で取りのぞきます。「動けない」といっても身動きができる患者さんはたいていそこで終了です。ベッドからひょいと起き上がって、「あ、靴下がはける!」と驚いてくれます。
でもその前に、もう一度動いてもらい、完治したかの確認をします。ちょっとでも違和感を残すと、そこからまた不具合が進行するかもしれません。 違和感が残ったときは に透熱灸をします。深部に熱が通って、患者さんが「熱い!」と叫ぶまで行います。たいていは3壮~、多くても10壮以内です。
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鍼を打つツボは、85%ぐらいは同じなのですが、深い鍼と浅い鍼の割合は患者さんによって大きく異なります。年齢や体力、筋肉のつき具合でドーゼ(刺激量)を調整しなければなりません。
深い鍼が怖い人もいますし、お灸が苦手な人もいます。
患者さんの目標、例えば「普通の日常生活」「楽しいテニスライフ」「試合に勝つ」にもよります。
どこに深い鍼を打って、どこに浅い鍼を打って、どう組み合わせるかは患者さんによって微妙に異なるので、ここでは紹介してあげられません。 |
年季を重ねたぎっくり腰の場合は、翌日に痛みが戻ることがありますが、まったく同じレベルにはならず、徐々に軽快していきます。
ぎっくり腰が患者さんとの最初の出会い、ということが多いので、お互いに初対面での治療になります。観察と話し合いが大切です。
そのうちみなさん、ギックリ来る前に治療したほうが楽だということに気がつきます。「足がピリピリする」「腰のあたりがモヤモヤする」など、自分なりの前兆が分かると、早めの治療で快適な生活が送れるのです。 |
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立ったまま腰に手を当てると、親指で触れるコロンと丸い塊が志室(■)というツボです。腰の上方、腰椎2番の外方にあります。
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多数の筋肉が交差している部位なので、昔は「筋肉の新宿駅」と説明していました。
腰痛が起こりやすい部位なのですが、軽いので志室の腰痛のためにわざわざ来院してくる患者さんはいません。
志室(■)を治療する必要はあまりなく、ここにつながる筋肉の硬直をほぐします。 の治療は必須です。それでもしこりが残ったら、簡単な鍼で解消されます。 |
2016年左膝痛で来院したテニス愛好家のKさん(当時50歳、女性)は、左志室がコブのように盛り上がって突出し、よくそこからぎっくり腰になったそうです。
整骨院では「膝の痛みは腰からきている」と言われたそうですが、『だったら何故腰を治さないの?』と思います。
膝(内側)を壊し、内転筋が踏ん張れない状態でバックハンドの強打をつづけたために、左志室に過負荷がかかって、コブのように固まって外方に張り出してしまったのだと推測しました。
「このコブは一生取れない」とも言われたそうですが、背中~腰でん部の硬直をほぐしつづけた結果、1年後にはコブが取れ、腰椎もほぼ左右対称になりました。
バイクの事故で転んで動けなくなった友人は、志室の腫れを糸状灸で取り除いただけで動けるようになりました。
転倒の場合は全身あちこち、思いも寄らぬ部位に障害が波及します。硬直部位が筋肉の走行とは無関係に点在するので、見つけるのが大変ですが、軽い炎症は患部を取り囲む糸状灸で取ることができます。 |
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肉体労働や激しいスポーツにいそしむ、ガタイが良くて筋肉隆々の男性におこります。腰の外方(■)に痛みと硬直があって、身体を後ろにそらせなくなるのが特徴です。
パルス治療が有効なことが多いので、腰でん部や足の筋肉に鍼を刺して電気刺激で筋肉を動かします。ガチガチに硬直した筋肉を強制的にほぐす効果があります。
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重労働をつづけた過負荷の積み重ねで、腰椎周辺の筋肉が次々に硬直してしまいます。筋肉が「ギプス化」すると、痛みを感じる神経の閾値が上がって、痛みが眠ってしまうのです。
一番痛い外方(■)が一番悪いところ、と思ってしまいますが、外方がほぐれると、腰椎の中央に痛みが移動します。 が病の根っこなのです。
初回からそこを狙うと、40代までの若い男性なら、たいてい1回で治せます。 |
最初に治療した友人の名前をつけて、「Yちゃん腰痛」とニックネームをつけていましたが、どうやら「椎間関節性腰痛」というらしいです。
Yさんはバスケ時代の友人で、間仕切りを作ってくれた大工さんです。動けなくなったときしか治療に来ませんでした。何回かこのタイプのぎっくり腰を患った後、数年後に椎間板ヘルニアを発症しました。「ちょとぐらい腰が痛いのは当たり前」と腰痛を我慢しないで、早めにきれいに治しておきましょう。 |
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硬直が鎧になってウェストが太くなる
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最初に腰の鎧(■)の治療をしたのは、1994年に来院したWさん(当時32歳、女性)です。パーティコンパニオンの主任格でした。ドレスや着物を着て、料理やお酒を運びながら、部下の動きを見守り、お客さんに笑顔で接する、短時間集中のハードな仕事です。体幹も手足も全身がバリバリに硬直していて、美しいので、まるでマネキン人形のようでした。まだ駆け出しだったので、手探りでの治療でした。 隔週で治療しつづけ、分厚かった筋肉がだんだん薄くなり、人間らしく柔らかくなり、ウェストラインもくっきりしてきました。本人いわく、物心ついたときからずっとウェストは寸胴だったそうです。
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3年目の年末、Wさんは仕事が超ハードなある日、突然ぎっくり腰で動けなくなりました。
呼ばれて行ってみると、仙骨あたりの不安感で身動きもままならない状態でした。そのときにはじめて、腰痛の根っこがそこにあったことに気づきました。
根っこを支えるために腰まわりの筋肉が次から次へと硬くなって、ギブスのように腰部を守っていたのです。
筋肉が柔らかくなってウェストがほっそりしたおかげで、ギブス効果が薄れ、根っこの痛みがバクハツしたのです。 |
2010年に来院したTさん(当時62歳、女性)はバドミントン部の先輩で、多趣味で働き者のスーパー専業主婦です。ずいぶん前から腰痛を抱えていて、「ずっと立っていると痛くなるから坐る。ずっと坐っていると痛くなるから、また立つ」という状態でした。腰でん部(■)は寸胴で、何層もの筋肉の硬直をまとっていました。
その頃には私もかなりのベテランです。ギプスのような硬直をほぐしていくと、いつか、一番弱っている根っこの部位が現れます。その根っこを治療すると、見事に奥までほぐれてくれるのですが・・・
「治療していると、途中で1回はぎっくり腰が起こるよ」と予言しました。
Tさんは「あら、春にギリシャ旅行に行く予定だから、そのときになったら困るわ~」と冗談交じりに答えたのですが、まるで予知したかのような結果になりました。
8回の治療で「少し腰痛」という状態になったあと、なんと旅行の前夜にぎっくり腰になってしまったのです。治療開始から4ヶ月後のことでした。
飛行機は夕方とのことでした。家が近所なので、「自宅で応急処置のカマヤミニを」と思ったのですが、バクハツの連鎖反応が起こったら時間がなくなってしまいます。休みの日でしたが、治療室に行ってフルコースの治療をしました。Tさんはすっかり治って、元気にギリシャ旅行を楽しむことができました。
その後は、腰痛に悩まされることはほとんどなくなりました。 |
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仙骨のぎっくりは身動き不可能になる
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上述のWさんは仙骨(■)のぎっくり腰で身動きもままならなくなりました。自分もなって分かったことですが、ちょっと動こうとしても「腰がほつれそうな不安感」が生じ、怖くて動けなくなってしまうのです。
これは女性特有です。骨盤が広いために、 の横棒( )に過負荷がかかり、骨盤が不安定になって、仙骨あたりに不具合が集約されるのです。
2006年に来院したNさん(当時28歳、女性)はジャズダンスとクラッシックバレエが趣味のキャリアウーマンです。(→「ダンスで坐骨結節~ハムを痛めた」に登場しています) Nさんの坐骨結節と股関節周辺の硬直は順調に回復していったのですが、治療開始から10ヵ月後(15回目)に前屈時に仙骨(■)の痛みがありました。
「このままだとぎっくり腰になるよ」と予言し、翌週の予約を入れたのですが、間に合いませんでした。
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翌日の夕方には仙骨の不安で動けなくなったそうです。3日後タクシーで来院したNさんは、歩くのもソロリソロリ、ベッドに横たわるのも起き上がるのも難しい状態になっていました。仙骨への多壮灸を中心に治療しました。
1回では治しきれず、3日後、5日後と来院してもらい、やっと3回目でほぼ完治しました。
その後はほぼ順調で、時折の不具合がありながらも、股関節の可動域が広がっていったそうです。 |
2021年、Mさん(当時44歳、女性)が仙骨(■)のぎっくり腰で来院しました。4年前に治療していた頃は、手、足、首、肩、腰と、全身がガチンガチンに硬直し、腰痛だけでなく肩痛や肘痛、膝痛、(坐っているときの)尾てい骨痛もありました。ドッグトレーナーが仕事で、大型犬を引っぱるのでとても力がいるのだそうです。
2年のブランクのあと、ついにぎっくり腰になり、身動きもやっとです。しばらく前から右足に違和感があったそうです。なんとかベッドに横になれたので、いつものように全身、そして腸腰筋と に集中的に治療をし、仙骨に透熱灸をしました。足が上げられる(=前に歩くのはOK)になったのですが、まだまだ身動きに不安がありました。
2日後、少しは動けるようになったとはいえ、仙骨の不安感で「ギクリと怖い」とのことでした。治療後もまだ不安感が残っていました。
最後に立ってもらい、動いてもらって痛みの出るポイントに糸状灸をしました。「痛い」と「熱い」が同時にくるタイミングです。部位がちょっとずつ変化するので、痛みを追いかけてお灸をくり返したら、まあまあ普通に動けるようになりました。
翌々日から仕事の予約がびっしり立て込んでいました。リョコちゃんストレッチをして、リョコちゃんウォークで歩くこと。「じっとしていたら治らないよ。とにかく一日中ゆらゆらと動きつづけてね」とアドバイスしたら、「マグロになるのね!」とにっこり。無事に仕事をこなすことができ、そのまま治ったそうです。 |
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2004年に腰痛で来院したYさん(当時42歳、男性)の腰を見てびっくり。でん部の中央(■)に筋肉が折り重なるように集まっていたのです。
「なんか、一日中小さな椅子に座りつづけたような凝り方ですね」と言ったら、「実は職業はパチプロなんです」とのこと。毎日12時間もパチンコ台の前の小さな椅子に座って仕事をしている、職業ギャンブラーでした。 鍼とお灸ででん部の筋肉(■)をほぐしたら、簡単に治ってくれました。
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Yさんが「でもけっこうな稼ぎになるんですよ」と自慢げに言うので、「うちの母も40歳からパチンコにはまって、毎日やっているんだよ~」と話しました。
その頃の母は71歳。「この30年間、うちの母はぜんぜん人間的に成長していないんだよね。仕事をするとか、ボランティアをするとか、人と会うとかすれば、いろんなことが学べるのに・・・」と残念に思っていたときでした。
「お金の問題じゃなく、身体のためにも、自分の成長のためにも、他の事もいろいろしたほうがいいよ」などとアドバイスをしたことを覚えています。 |
上述のMさんは坐っているときの尾てい骨痛を訴えたことがありますが、同じ頃に尾てい骨痛がはじまった患者さんがいます。
2012年に肩こりで来院したOさん(当時43歳、男性)は背中の筋肉がよじれるようで、腰痛もあり、全身がガチガチに固まっていました。
ふたりとも太っていて、筋肉がしっかりした固太りの体形です。坐っているときに坐骨結節周辺に全体重がかかるので、なかなか取りきれませんでした。
Oさんはずっと隔週でメンテナンスをしているのですが、去年のコロナ騒ぎで、在宅でのテレワークが多くなりました。そんなある日、でん部の中央(■)に筋肉が寄り集まって盛り上がっていたのです。大きなでん部には自宅の椅子が小さすぎて、まるでパチプロのようなお尻になっていました。
Oさんは大手の会社で投資に関係する財務経理の仕事をしています。(ある意味ギャンブラーかな?)通勤もなくなり、仕事のあとの飲み会もなく、大好きな旅行にも行かれないので、パソコンの前で椅子に座っている時間だけが長くなってしまいます。
でん部(■)の盛り上がりはすぐに取れましたが、テレワークの弊害はまだまだつづいています。身体に悪いし、心も沈むし、人間関係が希薄になって、社会性を学ぶチャンスが激減します。社会を変えることは難しいですが、この時期をどう乗り越えるか、未来の自分のために考えたいものです。 |
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頑固な「冷え」に奥の手、お腹の多壮灸
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女性に多いのは「冷え」からくるぎっくり腰です。肺から出た大動脈はあちこちで分岐して全身に血液を送っています。腹部を通る腹大動脈は、下腹部で二股に分かれて足に向かっています。その分岐点に女性特有の臓器があるために、女性は骨盤から足が冷えやすい・・・と本で読んだことがあります。
太っているか痩せているかに関係はないのですが、筋肉量とは関係があるかもしれません。筋肉は良く燃えるので体温が上がるのだそうです。
私がはじめてギックリ腰を経験したときのことです。年末は仕事も忙しいというのに、大掃除などもあります。軽い腰痛をなんとか自分で治したのですが、ふいに、『治りかけに無理をしてこじらせる患者さんがたくさんいるよな』と思い出しました。
『こういときに無理をするとどうなるんだろう?』と好奇心に駆られて、靴が入ったままの下駄箱を持ち上げてみました。とたんにビシビシーッと腰のあたりに亀裂が入ったような感じになって、そこからひどいぎっくり腰になってしまったのです。
それまで「腰痛なんて、首肩の痛みに比べればたいしたことはない」と豪語していたのですが、とんでもない!腰のあたりにどろ沼があって、沼から毒ガスが噴出しているような感じです。車に乗ってハンドルに手をかけるのに一苦労、ページをめくるのも一苦労で、「腰は要」という言葉をまざまざと実感しました。
腰部へのカマヤミニと手足の治療で応急処置をして、仕事は休まずにいられたのですが、治りそうな気配もありません。
日本で鍼灸の資格を取り、カリフォルニアで指圧の資格を取り、カナダで指圧をしていた(患者さんの)彼氏が治療に来てくれたのですが、鍼はあまり得意ではないようです。腰部への多壮灸をお願いしたのですが、「まだやるんですか?」「まだやるんですか?」と何度もきくので、途中で終わりにしてしまいました。
帰宅してから、『そうだ、お腹に多壮灸をしてみたらどうだろう?』と思いつきました。仰向けになって、下腹部(■)をあちこち押してみました。グーッと深く押すと痛いポイントがいくつかあったので、灸点紙をしいて多壮灸をすることにしました。
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とてつもなく気持ちが良くて、腰のほうに、ツツツツー、ツツツツーと、熱が届くのを感じました。痛い部位を引っぱっているような感触です。
10壮、30壮、50壮と、気のすむまでえんえんとつづけました。そしたら、ターニングポイントが訪れました。
病の勢いが強くなっていくときは、ほんとうにつらいのですが、折り返し地点を過ぎると、つらさが激減します。
「あ、治りそう!」と感じ、一気に楽になって、数日後に治ってしまいました。 |
ぎっくり腰の女性で、治療のあともベッドから起き上がれない患者さんがときどきいます。背部や腰でん部の治療は完璧なので、もう治療すべきところはありません。そういう女性に、腹部に多壮灸をすると、「あれ!」と驚き、スイッとベッドから起き上がれるようになるのです。骨盤内部の腸腰筋と関係があるかもしれません。
下腹部(■)を深く押して、圧痛点を探します。3~5ヶ所ぐらいなのですが、患者さんの「イタタ!」という訴えを目安にポイントを見つけましょう。 |
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背中の硬直がTゾーンを直撃
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1999年、Mさん(当時51歳、男性)は、タイ旅行の直前にぎっくり腰になって来院しました。5日前の発症とのことで、痛みの中心は仙骨(■)、そして両太ももに軽い痺れがありました。(彼の太ももは今でも硬いままです)
背が高くて、首から腰までシャキーンとまっすぐです。日本的には「姿勢が良い」と見られるのですが、脊柱がまっすぐだと、いろいろな不具合を起こしやすいのです。
1回目の治療でまあまあ動けるようになりましたが、4日後にタイ旅行だったので、3日つづけて治療しました。なんと奥さんもぎっくり腰になり、2日目と3日目は2人一緒の治療になりましたが、なんとか治って、2人で旅行を楽しむことができました。
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Mさんはその後もときどき治療に現れました。深い鍼が「怖い」とのことで、浅い鍼のみ。でもお灸が大好きだったので、根深いこりは透熱灸で治療しました。
Mさんの脊柱はまっすぐで、背骨の両側(■)にがんこな硬直がありました。腰でん部を治療しても、しばらくするとまた腰痛が起こってしまいます。
脊柱起立筋(■)がものさしのように硬直していると、圧の分散ができません。身動きするたびに、すべての圧が に集中してしまうのです。 |
背骨の両側(■)の硬直を透熱灸でほぐしつづけた結果、腰はすっかり楽になりました。「痛い」患部だけを治療するのではなく、患部に圧をもたらしている元凶を探しましょう。
Mさんは造形の会社の社長です。会社が移転したあと、腰痛が起こる回数が激減しました。事務所が2階になったため、階段を何往復もしなくてはならなくなったそうで、運動の効果は絶大ですね。
来院は数年に1回ぐらいになりましたが、途中から深い鍼も我慢してくれるようになったので、治療するのが楽になりました。 |
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腰椎の不具合を伴う、手ごわい慢性腰痛 |
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2010年にぎっくり腰で来院したHさん(当時33歳、男性)は、「2、3日前から前屈不能になり、靴下を履くときに足が上げられなくなった」そうです。医師には「腰椎の2番目がスカスカで、つぶれかかっていて、ヘルニアも少し出ている」と言われたそうです。
10年前からの腰痛を抱えていたとのことで、弱った腰部を支えるために、あらゆる筋肉が無理をして、硬直が全身に波及していました。
背中も腰も皮膚がどす黒く変色していました。皮膚は内部を映す鏡です。中身が治ると皮膚もきれいになるので、ひとつの目安になります。
痺れなどの神経症状はありませんでした。
下半身にはパルス治療、でん部には中国鍼(4寸4番)、置鍼をしたあとは単刺をし、残った硬直にお灸をして、徹底的に治療をしました。( はメインです)
治療後は5割ぐらい良くなりました。翌々日はとても楽で、そのあとまた痛みが戻ったそうです。
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- 痛みと硬直 - |
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腰部が元凶 |
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背中へ |
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でん部へ |
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太ももの裏と表へ |
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ふくらはぎへ |
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股関節へ |
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治療のあとは2、3日楽になり、また痛みが戻るというパターンをくり返し、Hさんの腰痛はなかなか治ってくれません。
Hさんは整備士です。エンジンも重いしタイヤも重い。無理な姿勢で作業をするので、整備士は腰痛とお友だちなのです。そのうえ若くしてベンツの工場長なので、毎日夜中の1時2時までハードな仕事をしていました。「朝起きたらネアンデルタール人だった」「磁石が取れたらまた腰痛に」と、一進一退でした。
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4ヵ月後(11回目)から、治療の中心を腰椎2番に変えました。
自分の経験から根深い腰痛は が元凶と思っていたのですが、Hさんが「医者が2番が悪いと言った」とくり返すのです。
素人から聞く医師の話はあまり本気にしていなかったのですが、あまりにも治りが悪いので、メインターゲットを腰椎2番に変えました。 |
それでも相変わらず一進一退でした。ツーリングやテニスのあとは1週間楽だったこともありましたが、運動する時間も取れません。
初診から1年後(29回目)、CTとMRIを撮ってもらったHさんは「腰椎4番あたりの椎骨が、削れ、変色、空洞など、ひどい状態だった」と言いました。私はびっくり。「2番じゃなかったの?」ときいたら、「下から2番目のことだったらしい」と言うのです。
その日は をメインターゲットに治療をしました。7日後の来院時は「大分いい」とのことで、若者のような動きになっていました。最悪の状態からマシにはなったとはいえ、Hさんは腰痛と縁が切れたわけではありません。試験勉強のために工場をはなれたあとも、何度も腰痛をくり返しました。
骨がスカスカになると、骨を支えるために筋肉が過緊張し、そのために腰痛が起こるのです。筋肉がほぐれて血流が良くなると、骨密度が上がっていきます。それは他の症例で経験済みなのですが、腰の筋肉は深いのでかなりの長丁場です。
初診から2年後(57回目)の治療が最後で、そのあとは年賀状のやりとりになりました。そのまま治ったと思うのは希望的観測かもしれない・・・と心配していたのですが、今も元気に仕事をしてバイクに乗っているとのことです。 |
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子どもの頃から腰痛を抱え、20代で治療に来た患者さんを紹介します。かなりの重症でしたが、みなさんきれいに治ってくれました。20代できちんと治療をすると脊柱の矯正も可能で、その後は「腰痛」で来院することがなくなります。

1993年に来院したKさん(当時26歳、女性)は、6年前から引きこもりの状態でした。メンテナンスに来ていたお母さんが「身体の問題なのか、心の問題なのか、どっちが原因なのかしら・・・」と心配していたので、「まず身体を治してみましょう」ということで来院になりました。 6年前に遊園地の乗り物でムチウチになって以来、首(■)から背中(■)にかけてのひどいこりに悩まされていました。
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「右目(■)が疲れると頭痛がおこり、手に痺れが出る」「右のわき腹(■)が硬くてつらい」とのことで、脊柱も歪んでいました。
腰の上方(■)は硬直と知覚過敏がありました。
「押されるとひびく」そうで、小学生の頃から背中に「椅子が当たる」と訴えていたそうです。 |
開業したてだったので、お灸、磁石、耳ツボなどあらゆる治療を試してみました。Kさんの症状はみるみる緩和されていき、首肩こりがなくなって、2ヶ月半後(9回目)に仕事をはじめることができました。
恋人もでき、友だちと遊んだり、国内外に旅行に行ったりもできるようになったんですよ。腰(■)の違和感もすっかりなくなりました。
最後まで手こずったのが「冷え」で、とくに手の平と足の裏(■)は魚のように冷たく汗ばんでいました。その後は自律神経失調症の治療を中心に行いました。

1996年に腰痛で来院したTさん(当時20歳、男性)は、整備士で首都高の「走り屋小僧」という熱烈な車好きでした。「2~3年前から少し痛かったのが、先月から急に痛みが激しくなった」「朝起きたときからから動いている間中痛み、とうとうタイヤも持てなくなった」とのことでした。
ときどき来院するお父さんと背骨の形がそっくりで、首から腰までまっすぐです。小学生の頃からときどき腰痛に悩まされていたそうです。
来院時は左腰外方(■)だけ、痛みを感じていました。ガタイがよくて筋肉隆々でハードワークをこなす男性によくある、上述の「そらすと痛い、Yちゃん腰痛」です。
駆け出しだったので、Tさんがぎっくり腰をくり返すたびに、「これはどう?」「あれはどうだった?」と話し合いながらいろんな治療をしました。4ヵ月後(9回目)、 の左側にピンポイントで硬直の塊(■)があるのを発見しました。ここが根っこでした。
「ここにパルスをかけてみたらどうだろう」と言われて、最後にパルスを追加したら、痛みが悪化して身動きもままならなくなってしまいました。ドーゼオーバー(刺激量過多)です。翌日の治療で痛みが消えたのですが、患部への強刺激は危険という戒めになりました。
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5ヶ月後(11回目)の来院時は、両側のハムストリングスと脛に痺れ( )が出ました。「左からはじまって右にも出た」そうです。
その痺れは1回で取れましたが、その後もときどき足(坐骨神経)のあちこちに出現しました。
7ヵ月後(16回目)には寝違えで来院。ここから首(■)の痛みを感じるようになりました。 |
1年半後(22回目)、両方の脛(■)に硬直と痛みが出現。かなり手こずって、取れるまで半年もかかりました。
脛(■)の硬直は深腓骨神経への圧迫で、放っておいたら神経麻痺を起こしたかもしれません。<→症例56:足先が上げにくい(脛の神経麻痺)>
入れ替るように、背中(■)の痛みを感じるようになり、だんだん腰痛をおこす回数が減っていきました。いつの間にか腰の塊(■)も消えてくれました。
ぐるぐる移動する不具合にさんざん悩まされましたが、治療開始から7年たったあとは、腰痛とはすっかり縁が切れました。

2005年、Nさん(当時24歳、男性)が、「数日前から右腰痛(■)で前傾ができなくなった」と来院しました。坐骨神経( )に沿って内くるぶしまで痛みと痺れもあり、「足をひきずって歩く」「片足で立てない」状態でした。ブロック注射を打ってもらったのですが、効果がなかったそうです。
高校野球部のコーチをしているNさんは、高三でヘルニアになったときは、鍼と神経ブロックで治療したそうです。(PL学園はとっくの昔から専属の鍼灸師がいたそうです)
この頃には私もかなりのベテランです。Nさんの坐骨神経痛は1回で治り、2ヶ月後(5回目)の治療のあとは腰痛もほとんどなくなりました。
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でも、ベッドにうつ伏せになっていると、肩(■)が痛くなり、固まってしまってすぐには動かせません。私も経験がありました。
筋肉の硬直が重積しているせいなので、肩の筋肉への集中治療を追加しました。
学生時代に肩を痛めて、ピッチャーからバッターに転向したそうです。コーチなのに自分でボールが投げられない・・・というフラストレーションを抱えていました。 |
主に灸頭鍼をしたのですが、半年後(12回目)、「右肩に痛みはあるけど、ボールが投げられるようになった」そうです。右肩よりも左肩に手こずりましたが、両方とも完治しました。
その後もたまに腰痛で来院しましたが、勤務先の高校で鍼師が常駐するようになったこともあって、2年後が最後になりました。
Nさんがずっと鍼灸治療をしていたおかげもありました。リトルリーグ時代から悩まされた腰痛でしたが、「20代で治療をするときれいに治るんだなあ」と実感したのです。 |
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背中が板なら、まな板のへり灸
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ある日のことです。ずっとメンテナンスに来ている患者さんたちが、いつもの治療を終わったあとも、どうもスッキリと治ってくれません。
50代の女性と、30代の男性が隣同士のベッドで並んで横たわっていたのですが、2人とも背中がまな板(■)のようになっているのに気がつきました。
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ふいに『まな板のへりにお灸をしてみたらどうだろう?』と思いつきました。私は「思いつき」を大切にしているのです。
まな板(■)のへり(■)にカマヤミニでお灸をしたら、なんと背中の円みが戻ったのです。
自分もやってもらったら、お灸をのせたへり(■)でなく、背骨の中央に熱さを感じました。 |
理論は後付けです。肋間筋が硬くなってまな板(■)状になっているとき、へり(■)にお灸をすると、熱が肋間神経を伝わって放射され、肋間筋の緊張が取れるらしいのです。背中~腰部の違和感をきれいにする効果があります。
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これがカマヤミニです。応急処置ができるので、自分でやれると便利です。家族にお灸をする患者さんもいて、ときどき私もお世話になっているんですよ。 |
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腕から腰へズラリと糸状灸(広背筋)
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これも「思いつき」でした。
どうしてもスッキリ治らない患者さんの身体を眺めたら、腕から腰が「引っぱられている」ように見えたので、両側に糸状灸( )をズラリと並べてみたのです。
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手首の近くの外関(三焦経)~肘の曲地(大腸経)~上腕~天宋(小腸経)~背中の外方~腰の まで、点々と糸状灸( )をのせて、一気に火をつけました。
(間隔は大雑把で、すべて寸止めです)
そしたら、あれあれ?スッキリ治ってくれました。
経絡の走行と無関係なので、『どういうつながりだろう?』とずっと不思議でした。 |
数年前に、どうやら広背筋(■)と関係があるらしいと気がつきました。上腕から仙骨までつながる広くて長い筋肉です。
につながる広背筋(■)の硬直をやわらげる効果がありそうです。 |
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背骨のでっぱりとでっぱりの間の「へこみ」にツボがあります。私はFT(フィンガーテスト)でツボを取りますが、「押して痛い」部位を探すのもいいですね。
歪みの強いポイントを探して、その両側に磁石を貼ります。歪みの基点に左右で磁場を作ることで、首から仙骨まで脊柱全体を一気に矯正できます。愛用している患者さんは数人ですけど。。。
ピップエレキバンは表側がN極になっています。ひっくり返すとS極が表になります。片側をN、反対側をSにして使います。 セロテープなどで仮留めして、患者さんに動いてもらいます。首が回しやすい、足を上げやすい、体幹がぶれないなど、その人なりの目安を見つけます。
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「かかとの痛み」に登場するCさんは、■のあたりが一番効果的で、首を左右に回旋させて判定します。
「足先が上げにくい」の2人目で紹介したSさんと、「腰痛・2」で脊柱の矯正をしているEさんは、■のあたりです。大股歩きで体幹がぶれないほうを選びます。
腰痛の激しいときは■のあたりに貼ることもありますが、ズボンに当たって取れやすいのが欠点です。
私が自分に貼るときは■のあたりです。手が届きやすいし、ブラとズボンのすき間なのではがれにくいからです。 |
可動域が広がって、なおかつ左右のバランスがいい貼り方を見つけましょう。
<N&S>にするとよく動け、<S&N>だと悪化する。それが判定の目安で、患者さん本人の感覚と、客観的に見た私の感覚が一致したら、絆創膏で貼り付けます。ツボは動くし、同じ部位だと痒くなるので、毎回貼りかえます。
私も骨格が悪いので、何年も磁石が手放せません。大股歩きで確認しているのですが、股関節の可動域は足の速さと関係があると確信しています。 |
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足に銀粒で「杖」の効果
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1回目の治療のあと、それでも立ち上がるのが大変なとき、足に銀粒( )を貼ると、杖代わりになることがあります。貼る場所はおおよその目安です。
前側は胃経や脾経など、後側は膀胱経など、横は胆経など、私は「思いつき」で貼るのですが、なんとか立ち上がれるようになるんですよ。
お年寄りの腰痛には、圧痛点に金粒( )を貼るだけで効果があることがあります。「寝た子を起こさない」治療にはちょうどいいのかもしれません。 |
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Updated: 2021/7/29 <初版 2003/1/24> |
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