症例39・脊柱管狭窄症 1・改
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<脊柱を支えている筋肉の硬直をほぐして治す>
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狭窄症は老化現象と関係している
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脊柱管狭窄症の重症度と治り方は、年齢とおおいに関係があります。40代、50代は見事にスムーズに治ります。60代はまあまあですが、後半になると治りにくくなます。70代になると、「治す」というより、これ以上悪くならないようにしながら、ちょっとづつ症状を緩和していくことしかできなくなります。
70代の男性から、「調べてみたら脊柱管狭窄症だった」という話をよく聞くのですが、ある日いきなりのことではありません。何十年も腰痛持ちで、何度もぎっくり腰をくり返した結果です。酷使のつけがやってくるのです。
男性と女性は骨格が違います。
男性は骨盤が小さくて、体幹とでん部の太さがほぼ同じです。腰の回転も自在にできて、年を取っても走りつづけられます。腰痛になってもでん部に波及しません。男性がでん部に痛みを訴えるときは脊柱由来です。酷使のつけは腰椎に蓄積され、男性の老化現象は背骨からはじまります。この病気が男性に多いのはそのせいです。
女性は骨盤が広いので、構造的に過負荷がかかりやすいのでしょう。女性の腰痛には、でん部への治療が必須です。女性の老化現象は骨盤からはじまり、股関節の可動域が狭まって、足が前に出にくくなります。腰椎由来の神経障害に至る人は少ないんじゃないかと思います。 |
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改訂にあたって
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1人目の患者さんは大腿神経の支配領域に障害がありました。
15年前の話ですが、2005年は暖冬だった冬からはじまって、そのまま夏の猛暑に突入し、秋も残暑がつづきました。気候が暑いときにはみなさん上半身が冷えるらしく、来院するのは頚椎症や肩や腕の不調の患者さんばかりでした。
冬に一気に寒くなったとたんに、ぎっくり腰や腰痛の患者さんが現れました。気候が寒いときには下半身が冷えるらしいのです。そのタイミングでの来院だったので、気候が身体に及ぼす影響の大きさがとても印象に残りました。
彼が治ったあと、最初の更新(2009/11/24)をしました。そのあと何十人も患者さんが来ましたが、ほとんどの人が坐骨神経の支配領域の障害でした。改訂版では2ページ目で、年齢別に症例をいくつか紹介したいと思います。 |
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坐骨神経痛で来院したけれど・・・
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2005年12月、友人が「ダンナが坐骨神経痛になっちゃったのよ~」と電話をかけてきました。家族ぐるみでつきあってきた昔からの友人一家なのです。
「坐骨神経痛なら鍼で治るよ」と答え、Aさん(当時59歳、男性)が治療にやってきました。
Aさんは1ヶ月ほど前、右腰と足に痛みが出て、近所の整形外科で、坐骨神経痛と診断されました。
痛み止めの薬を飲んで、牽引をしたのですが、どんどん悪くなっていって、ついに歩けないほどになったそうです。
初診の日は、ものすごく忙しい日で、他の患者さんの治療をしながら、症状を聞いたのですが、坐骨神経痛の人とは、なんか話のニュアンスが違います。 おかしいな???と思って、つづきは、ベッドに横になってもらい、治療をしながら、症状の確認をしました。 |
<坐骨神経痛なら・・・> |
■症状 / ■坐骨神経の出発点 |
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Aさんの足の痛みは太ももの前面でした。
坐骨神経は仙骨神経叢(腰椎4番~仙椎2番)→腰→でん部→太もものうしろ&外側→膝裏→ふくらはぎ→足へと走行しています。
Aさんはそこに何の障害もありませんでした。 |
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大腿神経に障害が出ていた
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Aさんの主訴は、「右の腰と臀部から、太ももとひざの痛み」があって、「歩くと硬直する」というものでした。右腰と臀部、右もも(大腿前面の筋肉)からひざにかけて、痛みと同時にしびれもありました。膝の下方には直径8センチほどの範囲で、皮膚がピリピリするような感じがあったそうです。
ちゃんと治療するためには解剖学の本の助けが必要です。太ももの前面は大腿神経の支配ですし、そこから伏在神経という皮枝が出ていて、Aさんの皮膚感覚異常の範囲と同じです。ぴったり一致しました。
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■大腿神経の出発点 |
■■痛みと痺れ |
■皮膚の知覚異常 |
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「腰神経叢」は胸椎12番~腰椎4番から出ているので、腰椎4番~仙椎3番から出ている「仙骨神経叢」よりは上のほうの脊柱に問題がありそうです。
大腿神経(L1~L4)は、腸骨筋、恥骨筋、縫工筋、大腿四頭筋、膝関節筋を支配しています。
痛みの原因である腰椎と、症状の出ている部位を両方治療します。 |
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間欠性跛行
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Aさんの歩行障害は、「太ももが硬くなると、痛みで歩けなくなり、少し休むと痛みがやわらぎ、また歩けるようになる」というものでした。
痛みはじめてから1ヶ月の間に、日に日に痛みがひどくなり、とうとう歩けないぐらいに悪化していました。はじめのうちは、椅子に腰かけていると楽だったそうですが、来院時には、日中だけでなく、夜も痛みで眠れないほどでした。
歩いているうちに、だんだん太ももが硬直してきて、激しい痛みで歩けなくなる。前かがみになって少し休むと楽になり、また歩けるようになる。歩き出してしばらくすると、また痛みで歩けなくなる。これは「間欠性跛行」とよばれる症状で、脊柱管狭窄症に特有の歩行障害のパターンです。
(ついでに言えば、間欠性跛行は、糖尿病でも起こります) |
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脊柱管狭窄症の疑い
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Aさんはどうやら脊柱管狭窄症のようです。病名は知っていましたが、患者さんははじめてです。
私を治療してくれていた友人に脊柱管狭窄症の治療経験がありました。筑波大まで出かけて、レントゲン撮影しながら鍼を打つところを見学したそうです。
彼女の本業は特養でのリハビリです。施設長である70代の男性医師が脊柱管狭窄症になりました。手術の予定でしたが、友人の整形外科医に「手術はリスクがあるのでしないほうがいい。ハリを試してみたらどうか?」とすすめられたそうです。
手術の予約日まで2ヶ月でした。担当医とも相談し、彼女が治療を依頼されました。ほとんど毎日のようにハリを打ったそうですが、見事に治って、手術はキャンセルになりました。
その施設長はその後もときどき腰痛になって、そのたびに鍼治療をしているそうですが、狭窄症の症状はでていないそうです。
彼女にAさんの治療をお願いたら、「いやよ!」と断られました。「あんな神経使う治療は二度としたくない。自分が頼まれたのならしょうがないけど・・・」と言われました。
彼女に山のような資料を借りて、私が自分で治療をすることになりました。 |
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脊柱の構造
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脊柱を構成しているのは、首は7個(頚椎)、背中は12個(胸椎)、腰は5個(腰椎)の椎骨たちです。
正しい脊柱を横からみると、頚椎は前弯、胸椎は後弯、腰椎は前弯と、前後にゆるやかなカーブを描き、頭の重みを分散するようになっています。(図-1)
日本人には脊柱の形が悪い人が多いのです。この「カーブ」がなく、背骨がものさしを入れたように「まっすぐ」だと、脊柱由来の障害が起こりやすくなります。
後から見ると、左右に「まっすぐ」というのが正しい脊柱の形です。(図-2)
<→症例17「腰痛・2改: 鍼灸で背骨の矯正」に詳しい説明があります> |
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椎骨の構造
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腰椎を例にして、椎骨の構造を見てみましょう。 |
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椎骨の前方は円柱状の「椎体」です。後方は「椎弓」です。「椎孔」をアーチ状に取り囲んでいます。
上下の「椎孔」の重なり合った空間が「脊柱管」です。中枢神経である脊髄神経が通っています。
椎弓の後にある「棘突起」は、背中から触れることができるデコボコです。椎弓の両側には「横突起」があります。
上下の椎弓が重なり合ってできる空間を「椎間孔」といい、末梢神経の通り道です。 |
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小さな椎骨たちが靭帯でつながれ、筋肉で支えられて脊柱を形成しています。たくさんの筋肉たちが、さまざまな形をして、さまざまな場所にくっついて、それぞれが別方向に収縮します。体幹が自由に動かせるのは、筋肉の多様性のおかげです。
筋肉は縮むことで働きます。過度な酷使がつづくと、筋肉はどんどん硬くなって縮んでいきます。筋肉内部の血管が圧迫され、血液の流れが悪くなり、疲労物質の代謝が難しくなってしまいます。
筋肉が硬直すればするほど、ますます硬直するという悪循環が起こるのです。
筋肉が縮むと上下の椎骨を引っ張ります。上下の椎弓の間が狭まって、そこを通っている神経が圧迫されます。ついにはまるで「積み木崩し」のように、脊柱がでこぼこになってしまうこともあるそうです。
椅子に腰かけたり、前かがみになったりすると楽になるのは、後方にある椎弓が広がって、神経の圧迫がゆるむからです。 |
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鍼灸治療の効果は?
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脊柱管狭窄症という病名は、「脊柱管が狭まって起こる病気」ということですが、具体的に、どこで神経を侵害しているのかは、はっきりしたことはわかっていないようです。
たいていは、骨が神経に触っているのではなく、組織の炎症、肥厚化、繊維化など、様々な要因があるそうです。
上下の椎弓が重なり合ってできる空間を「椎間孔」といい、そのすき間から末梢神経が目的地へと向かっています。「前かがみで楽」になるのであれば、椎弓を取り囲む筋肉をほぐして、椎間孔を広げられれば効果が期待できるでしょう。
鍼灸治療は臨床医学なので、「治療」と「軽減」の関連から結果を導き出し、結果から原因を類推します。今までの患者さんの症例から、椎骨周囲の筋肉の硬直をほぐすと、神経への圧迫をゆるめられるらしいということが分かっています。
狭まったスペースは血行が悪くなるので、炎症による浸出液や、滞った古い血なども、原因のひとつのようです。鍼灸治療は、気血の流れを利用して、澱んだところを掃除することができます。
排尿障害があると「馬尾症状」といわれ、脊柱管の中の脊髄神経(中枢神経)の障害だそうです。脊柱管内部にダイレクトに鍼を打つことはできませんし、リスクも伴います。そうなると私にはお手上げです。
症状の軽いうちから早めにメンテナンスをしてほしいと患者さんにお願いしてます。 |
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脊柱側弯症を併発
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Aさんには初心者の頃に練習台になってもらったことがあります。ずっと腰痛持ちだったのですが、「ぶらさがり」で、腰痛とは無縁になったと自慢げでした。
10年ぶりにAさんの身体を見てびっくり。背骨が曲がっているのです。腰の辺りで、大きく右カーブしています。
運動神経と体力に自信があって、なんでも自力で乗り越えるという彼のポリシーが裏目にでたのです。
痛い右腰を使わないようにして、重いものを持つのは右手、担ぐのも右肩。歩くときや、階段の昇り降りは、すべて左足でふんばる。それを続けているうちに、身体が歪んでいったのでしょう。
左側の筋肉(■)は大きなコブのように発達して盛り上がり、右側は弱々しく縮んでいました。
Aさんの脊柱は前後に「まっすぐ」で、左右で「曲がる」という最悪の状態でした。 |
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■筋肉のコブ |
■痛みは右側 |
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Aさんの治療がけっこうスムーズにいったのは、年齢が50代だったこと、治療開始が発症の1ヶ月後だったこと、左右の歪みの矯正がメインだったことなどが幸いしたと思います。 |
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治療開始から症状の緩和まで時間差がある
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筋肉の障害なら、硬直をほぐせばすぐに症状がやわらぎます。でも、神経の障害は、治療開始から痛みがやわらぎはじめるまで時間差があります。
急性の頚椎症なら症状がほぼ消えるまで2週間です。根深い神経痛や後縦靭帯骨化症などでは「楽になる」まで1ヶ月以上かかることもあります。
脊柱管狭窄症も同じで、2~4週間は効果が見えてこないので、患者さんを説得するのが大変です。「ギターの弦をはじくと、ボヨヨ~ンとしばらく音がつづくでしょ。神経の痛みはそれと同じ。効果があらわれるまでどうしても時間がかかるのよ」と説明して、理解してもらっています。
Aさんの治療は週に2・3回のペースではじめました。経絡治療でバランスを調整し、全身に鍼を打つと、小さな不具合を一掃できます。メインの患部は、神経の出処である腰椎と、神経症状の出ている右のでん部と股関節(そこを押すと足に痺れが走る)、痛みの一番激しい右ももです。脛の皮膚の感覚異常の治療もします。
脊柱の両側に磁石を貼って、背骨の矯正もしました。
治療後は楽になるのですが、終わって駐車場まで歩いているうちに、また、元通りの痛みと痺れがぶり返します。
とにかく、少しの時間でも、大腿神経を楽にして休ませてあげる。それをくり返すうちに、だんだん楽な時間が長くなり、快方に向かいます。
奥さんにもお灸のやり方を覚えてもらって、家庭でも、毎日カマヤミニをやってもらいました。 |
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神経ブロック注射で後戻り
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Aさんは、友人としての私を信頼してくれてはいるものの、東洋医学や鍼灸には半信半疑でした。はじめのうちは「お付き合い」みたいな感じでした。
圧迫が長くつづくと、神経が変性を起こします。そうなると、完全に治るのは難しくなります。とにかく、早ければ早いほど、完治の可能性が高くなります。こっちはあせっているのに、本人はいたって呑気です。もちろん、痛みで仕事もできなくなっていたので、心底困ってはいたのですけど。
Aさんの場合は、約2週間を過ぎた頃から、痛みが和らぎはじめました。
そのあと大学病院でMRIなどの検査を受けました。お医者さんに「鍼に行っている」と言うと、「鍼って、効きますか?」と、逆に聞かれたそうです。
手術をしても、症状が戻る場合があるし、リスクも高い。成功率は70%ぐらいで、下半身不随になる可能性もあるそうです。「もう少し様子を見てみたら?」と言われ、神経ブロック注射を試してみたそうです。神経の束から障害のある神経を選り分けて、麻酔薬を注入し、痛みを眠らせる手技です。
彼の場合は逆効果で、せっかく治まっていた痛みがまた戻ってしまいました。妙な鈍痛としびれがはじまり、腰が重くなったそうです。1週間分、逆戻りです。その症状を取るのに、また苦労しました。 |
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整体でまた後戻り
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痛みがあっても、ハードな仕事をこなし、治療開始から約1ヶ月で、やっと、「歩いているときの痛みがまったく出ないこともある」という日がやってきました。
「やれやれ」と思ったところで、また、逆戻りになりました。周囲の人々があれこれ心配して、整体の名医がいるからとすすめられて、わざわざ京都まで日帰りで、整体を受けに行ったそうです。
鍼灸治療は、物理的な圧力をかけないので、器質的疾患にも対応できますが、指圧や整体は、よほど気をつけないとリスクが伴います。
「脊柱管狭窄症ですと、ちゃんと説明したの?」と聞いたら、「何の話もしないで、ベッドの上でいきなりパキパキやられた」とのことでした。
神経の痛みがまた悪化してしまいました。それを取るのに、また2週間ぐらいかかってしまいました。 |
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そんなこんなで、Aさんの治療はなかなかはかどりません。痛みも和らいで、仕事もできるようにはなったのですが、2~3割ぐらいの痛みと痺れが残っていました。
「こんなはずはない」と、あれこれ治療を工夫したのですが、「症状ゼロ」に、なかなか持っていけません。
治療開始から2ヵ月後、最初の病院で処方された痛み止めの薬を、ずっと飲み続けている話を聞きました。昔アウトローだったAさんが、薬をまじめに飲み続ける人だったなんて、想像もしていませんでした。
痛み止めの薬は神経を眠らせるので、鍼灸治療の効果が損なわれます。薬を選ぶか、鍼灸を選ぶか、どちらかにして欲しいとお願いしました。
薬をやめて4日後、痛みが5割にぶり返しました。いろいろな患者さんの話を聞いて、「薬は気休め程度」と思っていたのですが、けっこう効果があったんですね。
それからは治療の効果がいきなりアップし、みるみる良くなりだしました。薬をやめてから2週間で、「たまに違和感を感じる」程度になりました。
初期の頃の、痛みの激しい間は、痛み止めの薬と鍼灸との併用もやむをえないかもしれませんが、なるべく早く薬をやめるようにしたいものです。 |
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Aさんは、痛みのひどいとき、日に何度もお風呂に入ったそうです。
ヘルニアの患者さんも言っていたのですが、薬も効かない激しい痛みのときでも、お風呂に入っている間は、痛みがなくなるそうです。でも、出た直後から、元通りの痛みが戻ってきます。それは何故でしょう?
知覚神経の受容器は、触、冷、温、圧、痛とそれぞれ別々になっています。お風呂でに入ると、全身から「温」の情報が、洪水のように大量に脳に送られます。脳は「温」の情報処理に追われて、「痛」の情報を拾えないのではないでしょうか。
お風呂から出た瞬間、「温」の情報がなくなるので、また痛みを感じるようになる、というわけです。
その点、鍼灸の場合は、終わった後も効果が持続します。鍼灸は身体に「どうやったら治る」のかを教えてあげるのが仕事です。「なるほど」と効果が数日つづくけど、また忘れてしまいます。神経痛の治療には根気が必要です。
お風呂や温泉は、新しい疲労には癒しの効果があると思います。いい状態のときにお風呂に入って、いい状態をキープするためには有効ですが、すでに壊れたところを治療することはできません。 |
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本人の努力
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2ヵ月半後に、痛みと痺れが「かるい違和感」になってからは、Aさんの治療は週1ペースに変えました。その後、症状がほとんど消えたので、4ヶ月めからは、2週に1回のペースにしました。毎週の治療は、お互いに大変なので、症状が落ち着いたら、その人に合ったパターンで間隔をあけるのがいいと思います。
自分の身体の歪みに気づいたAさんは、時々鏡の前に立って、姿勢を矯正したそうです。左に偏っていた生活習慣を、右重視に変え、バランスよく筋肉を鍛えることを心がけました。階段の2段上りをするなど、筋トレもあれこれ工夫したそうです。ストレッチにも熱心で、家にいるときにも仕事の合間にもしょっちゅうやったそうです。
私の治療方針は、「仕事も運動も休まない」です。動くことで血行もよくなるし、筋力をつけながら治療することで、治った後、日常生活にスムーズに適応できます。
安静にしていて、痛みが出なくなり、「治った」と思っても、弱った筋肉に大きな負荷がかかるので、また痛みがぶり返す。そしてまた安静にする・・・
それでは、元気な生き方は望めません。
とくに60歳を過ぎてからは、年を取れば取るほど、本人の努力なしには治せなくなります。よく動く人はよく治る。動かない人は治せない。これが現実です。 |
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今もテニスを楽しんでいる
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治療開始から3年半後、2009年4月(63歳)、Aさんはテニススクールに入りました。
実は、テニスを始めて1ヶ月で肉離れを起こしてしまい、Aさんのプライドは、相当傷ついたようです。1・2ヶ月くらいは、ほとんど歩けないという状態がつづいたので、想像以上に筋力が落ちていたのでしょう。「歩く」のと、「ボールを追いかけて走る」のでは、別次元の筋力が必要なわけですし。
テニスをはじめてから、どんどん若返っていき、「すっかり絶好調」と、ときどき治療に来なくなります。3ヶ月ぐらい間が空くと、背中から腰の筋肉がカチンカチンになって、鍼が入らないほどに硬くなってしまいます。
60代までは隔週の治療だったのですが、70代になったら、老化のスピードが速まっていきました。週一ならちょっとずつ良くなっていくのですが、隔週だとちょっとずつ悪くなっていくのです。70代になってからは、ほとんど毎週治療をするようになりました。
現在は73歳ですが、足も速いし、若者のような身のこなしと周囲の人たちに驚かれています。脊柱のゆがみはさほど目立たない程度に改善され、仕事にも、週4日のテニスにも、山登りにも、まったく支障はありません。
でも、私の臨床経験から、鍼灸をやめたら、たぶんまた身体がゆがんでいくのだろうな、と思います。
老化のスピードに負けないように、治ったあともメンテナンスが必要なのです。 |
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2ページ目へつづく |
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Updated: 2020/7/25 <初版 2009/11/24> |
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