症例36・帯状疱疹
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<ウィルスのコロニーを鍼灸で壊滅させる>
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水ぼうそうのウィルスが原因
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帯状疱疹はヘルペスウィルスの仕業です。
人に感染するヘルペスウィルスは、HHV-1~HHV-8まで、8種類が発見されています。帯状疱疹をおこすのは、3番目に発見されたヘルペスウィルス(HHV-3)で、水痘・帯状疱疹ウィルス(VZV)と呼ばれています。
このページを書くにあたって、本田まり子さんの「帯状疱疹・単純ヘルペスがわかる本」(法研)を参考にさせていただきました。 |
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*関連ページ: 細菌やウィルスによる皮膚の感染症 |
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症例5 |
いぼ ウィルス性のいぼはお灸でポロリ |
症例16 |
水虫 お灸の熱で細菌が死ぬ |
症例32 |
傷、おでき、ヒョウ疸、褥痩、しもやけ 退治と感染予防 |
症例36 |
帯状疱疹 鍼で血行促進、お灸でコロニーを撲滅 |
症例58 |
虫刺され 蚊、ダニ、ブヨ、チンクイ虫、スズメバチ、ノミ他 |
症例60 |
外耳炎 耳まわりの鍼で血行を促進 |
症例63 |
とびひ お灸の痒み止め効果と細菌退治 |
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水疱瘡/水ぼうそう
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水痘・帯状疱疹ウィルスにはじめて感染すると、水ぼうそうになります。赤ちゃんや幼児などがおもにかかる病気で、小さいときにかかったほうが軽くすみます。大人になってから感染すると、かなり大変です。
感染力が強いので、一緒にいるとうつりやすく、保育園などで大流行したりします。こういうウィルス性の病気は、症状(発疹と発熱)がでる直前が一番感染力が強いので、何気なく一緒に遊んだあとで、「実は、うちの子、水ぼうそうにかかっていたの」と教えてもらうパターンになります。潜伏期間は2週間ぐらいです。
このウィルスは、神経が大好きです。水ぼうそうが治ったあと、生き残りのウィルスは知覚神経節にもぐりこみ、眠りにつきます。宿主である人間の免疫力が弱ったとき、2度目の大爆発は、帯状疱疹というかたちでおこります。たいていは、そこで撲滅され、3度目の発症はないそうです。 |
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帯状疱疹になると・・・
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水ぼうそうは全身の病気ですが、帯状疱疹は、たいてい、特定の神経節でのみ再活性します。私が治療した患者さんは、ふたりとも、目のまわり(三叉神経第1枝)でしたが、肋間神経などでもよく起こります。
はじめに、神経節に刺すような痛み、皮膚の知覚異常(ひりひりしたような感じ)、皮膚の痒みなどが、数日間つづき、そのあと、赤いポツポツした発疹(紅斑)がでて、それから小さな水ぶくれになります。
次々に現れては変化していくので、皮膚の上は、赤いポツポツや、水ぶくれや、治りかけの茶色いシミなどが混在します。その様子は、水ぼうそうとそっくりです。
痛みの度合いは、人によって違うそうです。自然に治る場合もあるのですが、神経痛になったり、合併症を起こす場合もあります。 |
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痛みがない場合もある
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最初の患者さんは、Tさん(当時59歳の男性)でした。週に1回、肩こりなどの治療をしていました。1994年の11月に来院したとき、顔がはれて、左目の上のあたりに、かさぶたのような小さなポツポツができていました。近くの皮膚科で、「湿疹」と言われたそうです。顔の腫れを取って、ふつうに湿疹の治療をしました。
次の週に来院したとき、「大学病院に行ってみたら、実は帯状疱疹だった」と話してくれました。そのときには、発疹も最終段階で、茶色いシミのようになっていました。浅いハリで置鍼をし、そのあとで糸状灸をしました。
たいていの帯状疱疹は激しい痛みを伴います。痛みがまったくないと、初期の段階では、見分けがつきにくいのだと思います。
Tさん一家は、昔から光線(カーボンを燃やすタイプ)を愛用していて、なにかがあると、すぐに自宅で光線治療を行います。親戚の人も何人か帯状疱疹を患ったことがあったのですが、だれも痛みが出なかったのは、光線をかけたおかげだと、Tさんの家族は言っていました。 |
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神経痛などの後遺症が怖い
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2000年から来院しているHさん(骨盤から足への痛み、いぼ、棘、モートン氏病で紹介した人)は、その後も、10日に一回ほどのペースで、ずっと治療に来ています。
H17年3月のある日(当時70歳)、予約のキャンセルの電話がかかってきました。右のこめかみが痛いので病院に行ったら、ヘルペスと言われたので、治療をお休みしたいと言うのです。
いつもなら、「あっ、そう、お大事に」とあっさりしている私ですけど、Tさんの例があるので、治療に来るようにすすめました。
きちんと治さないと、知覚神経が変性を起こして、神経痛(帯状疱疹後神経痛)になってしまう可能性もあります。顔の神経痛=三叉神経痛は、とても痛みが激しいそうで、そのために自殺する人もあるそうです。 |
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( 「顔面神経麻痺(顔面神経と三叉神経)」参照) |
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帯状疱疹の鍼灸治療
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Hさんは、右目の上とこめかみに、ちいさなプツプツができていました。「目の下に発疹がでたら、目の神経がやられたことになるので、失明する危険性がある。絶対安静してください」とお医者さんに言われたそうです。
痛み止めなどの薬を飲んでいたのですが、あまり効果がなかったそうです。こめかみの痛みも激しく、微熱もあって全身がだるく、かなり参っていました。
ヘルペスの上には、浅いハリで15分ほど置鍼をしたあとで、灸点紙をして透熱灸をしました。顔面の腫れを引っぱるために、上曲池と合谷にも灸点紙をして透熱灸をしました。
治療直後には、激しい痛みが治まって、こめかみの違和感もなくなりました。次の日には、ほとんど良くなったそうです。
2週間後に来院したときには、湿疹もすっかり消えていました。 |
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発症してすぐならきれいに治るけど・・・
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「帯状疱疹」と聞いて、鍼灸院に行く人は少ないと思います。私の場合も、たまたま定期的に来ていた人なので、治療をする機会があったのだと思います。
TさんとHさんは、ふたりとも、後遺症もなくあっさり治りました。
Tさんの場合は、帯状疱疹と診断されるまでに日時がかかりました。私がはじめて診たときには、ポツポツはすでに茶色がかっていたので、「湿疹」と言われても、不思議に思いませんでした。そのまま痕が茶色のシミのようになって残り、消えるまでに数ヶ月かかりました。
それに比べて、Hさんの場合は、発症してすぐの鍼灸治療でした。水ぶくれになりはじめの状態で、痛みなどの症状は激しかったのですが、そのわりに、治療してすぐに痛みが引きました。茶色のシミが残ることを予想していたのですが、シミにならずにきれいに治りました。
どんな病気にもいえるのですが、発症してすぐ、組織の変性が起こる前に治療したほうが、予後はスムーズなようです。 |
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単純ヘルペスとの違い
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口のまわりや性器などのヘルペスを、何度もくり返す人がいます。それは水痘・帯状疱疹ウィルスとは違う、単純ヘルペスウィルスの仕業です。
どちらも同じように「ヘルペス」と呼ばれるので、こんがらがってしまいますよね。
口内炎や咽頭炎、脳炎、口唇ヘルペスの原因になるのは、単純ヘルペスウィルス1型(HHV-1)で、おもに上半身で発症します。性器ヘルペスの原因になることが多いのは、単純ヘルペスウィルス2型(HHV-2)で、おもに下半身で発症します。 |
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単純ヘルペスは再発をくり返す
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見た目は、帯状疱疹も単純ヘルペスも、水ぶくれを伴うちいさなポツポツがでるという点で、あまり変わらないそうです。
帯状疱疹は、神経や神経のまわりの組織、皮膚などのダメージが大きく、症状がとても激しくでます。その分、免疫機能が強力に働き、しっかり免疫がつくので、その後の再発はほとんどないそうです。
単純ヘルペスは、症状が軽いので、免疫システムをあまり煩わしません。きちんと免疫ができないので、宿主となった人間の、体力や免疫力が低下するのを見計らって、何度でも再発を繰り返すそうです。
水ぼうそうは、一生に1回だけしかかかりません。運の悪い人は、帯状疱疹として2度目の再発に見舞われますが、それを乗り越えれば、生涯免疫をゲットできます。
単純ヘルペスには、なるべくかかりたくないですね。接触感染なので、うつらないように、うつさないように、気をつけたいものです。 |
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他のヘルペスウィルスと主な病気
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HHV-1からHHV-8まで、ヘルペスウィルスが引き起こす主な病気を、簡単な表にしてみました。
エイズなどでよく聞く病気があります。エイズ(後天性免疫不全症候群)に感染していると、健康体ならば共存できているヘルペスウィルスにやられてしまうのですが、それを「日和見感染」といいます。
興味のある方は、参考にしてください。 |
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ウィルス |
関連する主な病気 |
単純ヘルペスウィルス1型 |
HHV-1 |
口内炎や咽頭炎、脳炎、口唇ヘルペス |
単純ヘルペスウィルス2型 |
HHV-2 |
性器ヘルペス |
水痘・帯状疱疹ウィルス(VZV) |
HHV-3 |
水ぼうそう、帯状疱疹 |
EBウィルス |
HHV-4 |
伝染性単核症 |
サイトメガロウィルス |
HHV-5 |
肺炎 |
ヒトヘルペスウィルス6 |
HHV-6 |
突発性発疹、脳炎 |
ヒトヘルペスウィルス7 |
HHV-7 |
突発性発疹 |
ヒトヘルペスウィルス8 |
HHV-8 |
カボジ肉腫 |
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