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 症例42・テニス肘 new 1 (2022)
 <こじらせると厄介な上腕骨外果炎>
「テニス肘」はニックネーム
自分が3回目のテニス肘に見舞われて、『なるほど!』と細部まで理解がすすみ、2012年に更新したページをリニューアルしました。
年末にXPが壊れてwindows11に買い換え、フォントとレイアウトの変更を余儀なくされました。新しい会計ソフトに1年分のデーターを入力しました。ほとんどが怒涛のマウス仕事なので、右腕全体に疲労が蓄積。『治療しなくちゃ』と思いつつ、パソコン仕事に没頭していました。筋肉の硬直をそのままにシングルスの試合をやったのがきっかけでした。
今回のは言うなれば「マウス肘」です。3回目なので、自分の症状と治るにつれての変化をじっくり観察することができました。筋肉の図をスキャンする余裕がないので、イラストはおおざっぱですが、とりあえず書き直すことにしました。
・・・これでまた治りが遅くなりそうですが・・・(笑)

「テニス肘」という病名がつけられたのは、19世紀後半だそうです。テニス選手によく起こるということで、そういう病名がつけられたのですが、原因はテニスだけではありません。
腕の使い過ぎでおこる肘の痛み=上腕骨外果炎につけられる病名で、五十肩腱鞘炎と同じく、ニックネームのようなものです。
テニス以外の、ゴルフやボーリングなどによるスポーツ障害や、大工さんなどの職業病の場合もありますし、主婦業が原因になることもあります。
上腕骨外果とは?
前腕は橈骨と尺骨の2本の骨で構成されています。肩関節からはじまる上腕骨は、外側で橈骨()と、内側で尺骨()とくっついて、肘関節を構成しています。
前腕を曲げたり伸ばしたり(屈曲、伸展)するだけでなく、前腕を回旋(回内、回外)させることもできます。複雑な動きを可能にするために、たくさんの筋肉が複雑につながっています。

手の甲を上に向けて、机の上に腕をのせてみましょう。
外果とは、肘の外側にでっぱって見える角の部分、上腕骨外側上顆のことです。テニス肘はここで起こります。
尺骨()の肘頭()は頬杖をつくときに机の上にのっかるとんがりです。

ちなみに「野球肘」は内果=上腕骨内側上顆で起こります。
手を上げたときに見える小指側の肘のでっぱりが内果で、ここを起始として、手首に向かって、たくさんの屈筋が共同腱になってくっついています。
共同腱に波及すると「テニス肘」になる
テニス肘が重症化しやすいのは、構造からきています。
上腕骨外側上顆=外果()には、浅層の伸筋の多くが共同腱(=総伸筋腱)になってくっついています。前腕~手首~指の筋肉たちの支点なので、加重がここに集中します。
力を入れて筋肉をギュッと収縮させるときに痛みが出ます。曲げ伸ばしをするだけで痛むとき、安静時痛が出るときはかなり重症です。

このうちのどれかの筋肉を痛めたとしても、みんなが連動して収縮するので、過負荷の連鎖反応が起こります。
「総伸筋腱」に障害が波及すると「テニス肘」になるのです。
短橈側手根伸筋 手首の伸展と撓屈
(総)指伸筋 手首と指をそらす
小指伸筋 小指をそらす
尺側手根伸筋 手首の伸展と尺屈

筋肉には血管が通っているので鍼の効果は絶大ですが、「腱」には血管がないので治癒に時間がかかります。
筋肉は縮むことで関節を動かします。どこかに不具合があると筋肉が硬直、ギプス化して固めて守ろうとします。硬直した筋肉は縮んで付着部の「腱」を引っぱるので、ますます悪化していきます。
筋肉をほぐせば、柔らかくて弾力のあるクッションのようになって、「腱」への圧力を弱めることができます。
治療のポイントは、腱鞘炎五十肩と同じ。「筋肉」が痛んでいるうちに、できるだけ早く治療をはじめることです。
「筋力を維持するために、使いながら治す」主義の私ですが、外果の構造から、テニス肘だけは「休ませる」ことがベストのようです。
「どれだけ早く治療をはじめるか」だけでなく、「どれだけ休ませられるか」も重要ポイントであると身に沁みています。
肩から指先まで、あらゆる筋肉を治療する
はじめは「鍼灸でなんでも簡単に治せるはず」と、テニス肘をあなどっていました。使いながら治そうとして、とことんこじらせてしまいました。
故障をかばって、肩から指先までのあらゆる筋肉が無理をさせられます。最初のテニス肘では、痛みを追いかけて治療をつづけ、『元凶はどこなの?』と、ほとんどパニック状態になってしまいました。

上腕二頭筋、上腕筋
橈側手根屈筋、腕橈骨筋、長掌筋、円回内筋、回外筋
浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋
尺側手根屈筋
前面
後面
上腕三頭筋
短橈側手根伸筋
総指伸筋
小指伸筋
尺側手根伸筋
長橈側手根伸筋、長母指外転筋、短母指伸筋、長母指伸筋、示指伸筋
→末尾にこれらの筋肉の「」があります。

筋肉は共同運動をしているので、腕全体に硬直が波及していきます。患部に重点をおきながらも、かばって起こるあちこちの痛みも同時進行で治療しましょう。全体の筋肉がほぐれると、障害のある筋肉や腱の痛みが軽減されますし、治癒も早まります。
状態に応じて、いろんな鍼やお灸を組み合わせます。

① 筋肉に直接、深刺しをする
硬直した筋肉を狙って、深い鍼をズラリと刺して置鍼します。ズシーンと痛みが響きますが、5分ぐらいすると和らぎます。
(自己治療の直後はハンドルも握れないほどに痛みが増悪しましたが、鍼で血流がおこるので、時間がほぐしてくれます)
② 前腕全体に浅刺しをして、邪気を取ってこわばりをほぐす
あまり鍼を打たれると、カラダも疲れて『もうイヤだ』と訴えてきます。肘から手首まで、ありとあらゆる部位に、切皮だけの浅い鍼をたくさん打って置鍼します。全体的な痛みとこわばりが解消して腕が楽になります。患者さんには、まず浅刺しでこわばりを取って、それから次の段階へすすむこともあります。
③ 横刺が効果的
たいていは筋肉に対して垂直に、何本かの鍼を組み合わせるのですが、「横刺」も有効です。筋線維に沿って斜めに鍼を入れていくと、効率的な治療ができます。初期には横刺だけで治ることがあります。
④ 透熱灸で深部を温める
腱には血管が通っていないので鍼の効果が持続しません。腱には透熱灸で治療をしましょう。冷えの激しい筋肉も深部まで熱を伝えられます。
私は灸点紙を使います。熱がマイルドになるし痕も残りにくいからです。細く柔らかくひねった糸状灸からはじめ、積もった灰の大きさに合わせて、ちょっとずつもぐさを大きくしていきます。深部まで「ツーン」と熱が到達したところで終わりにします。
(冷えが激しいと水ぶくれができます。私の右腕はお灸の痕だらけになってしまいましたが、治ったあと数か月できれいになりました。皮膚は内部を映す鏡なのです)
⑤ カマヤミニで広範囲を温める
市販のキットを使って手軽に簡単にお灸ができます。患部だけでなく、かばっておこる痛みにも有効です。使われている粗悪もぐさは発熱量が高く、遠くから広範囲を温めることができます。「腱」を痛めた患者さんには自分で毎日お灸をするようにお願いしています。
⑥ キネシオ・テーピングで筋肉を保護し補強する
テニスをするときに予防の意味で、あるいは再発防止の意味でテーピングをするときは、2.5センチ幅のキネシオテープを組み合わせて貼ります。
日常生活で痛むときは、5ミリ幅ぐらいの細いテーピングをしました。可動域を維持したまま、筋肉をつけながら治すことができます。
(テーピングのやり方は→最後の項目で紹介しています)
フォアハンドでおこるテニス肘
昔は、片手バック・ハンドの選手が多かったので、「テニス肘といえば、バックハンド」だったそうです。両手打ちが主流になって、フォア・ハンドでのテニス肘が目立つようになりました。

私のテニススクールで教えてくれたのはほとんどスピンの打ち方です。
順回転がかかったボールは空中で急降下してコートの中に落ちるので、ストロークが安定します。弾んで高くのびていくので、攻撃されにくいという利点もあります。
尺側の屈筋を主に使うのですが、腕だけではスピンはかけられません。後から前にボールを押し出すのではなく、体重移動は下から上。膝を曲げて、下半身の力をボールに伝えます。
非力でもスピンは打てます。「筋力」というより、身体の「しなやかさ」で打つボールなのです。

当時はまったく理解ができなかったのですが、今では一番得意なショットです。今回の「マウス肘」ではスピンは問題なく打てました。
スピンのフォーム
ラケットを下から上に振り上げる
ボールに順回転(スピン)がかかる

週に1回のスクールが唯一の運動だった私ですが、4年たって仲間ができて、いきなりテニスの面白さに目覚めました。クラブに入会し、そのほか、友人たちと市民コートを借りての練習など、プライベートライフはテニスを中心に回るようになりました。筋肉もろくろくない非力な身体で、いきなり暴走をはじめたのです。

2009年の春、コーチに「みづさん、その打ち方だと、肘を痛めますよ」と指摘されました。
???と思ったのですが、テニスのこともフォームのことも知らない素人でした。

すごいスピードボールを打つ男性とラリーをするようになりました。こっちもなんとかして速くて強いボールを打とうとがんばった結果、力強い親指側の筋肉を使うようになりました。
フォロースルーの最後に手の平が下を向く、手首をかぶせるような打ち方です。

さすがプロのコーチです。ちゃんと詳しく教えてもらえば良かったのですが、予言通り、フォアのストロークで右肘を痛めてしまいました。
肘を壊すフォーム
短橈側手根伸筋を酷使する
ボールに回転がかからない

このときはテニス肘の怖さを知りませんでした。「鍼で簡単に治せるはず」と思って高をくくっていたのです。「日常生活は普通にこなして、筋力を維持しながら治す」というポリシーもありました。
ずっと隔週で友人に鍼灸治療をしてもらっていたのですが、彼女は(私の手の届かない)背部への治療だけで手一杯でした。患者さんが帰ったあと、不器用な左手で、夜中までひたすら自分の治療をしました。
すべての伸筋に障害が波及してしまい、「完治」したのは1年後でした。

2014年の春に2回目のテニス肘になり、このときもフォアハンドで、短橈側手根伸筋()のテニス肘です。
私にスピンを教えてくれたのはクラブの先輩です。フォームを分析して分解写真のように教える彼のやり方が、私の理屈っぽい頭にピタッとはまり、あらゆるショットの打ち方を教わりました。
彼が教えているサークルにも参加させてもらいました。教えるのが趣味の発展途上のコーチで、ときどき新しいアイデアを思いつきます。「最後にラケットをかぶせるように打て」と言い出したとき、『私はそのせいでテニス肘になったんだけど・・・』と思いながらも、弟子としては逆らえません。
しばらくしたら、先輩とサークルの仲間と、3人そろってテニス肘になってしまいました。2人は男性でしたし、私が治療をしたのですぐに治りました。
でも私のテニス肘はまたも長引きました。ちょうどその頃、愛犬のヴェルを亡くしてしまいました。もうテニスどころではなく、2ヶ月間、家と仕事場に引きこもっていました。ペットロスで当時のことはあまり覚えていませんが、復帰してから1ヶ月近くも治らなかった記憶があります。
どうやら、短橈側手根伸筋()のテニス肘は重症化しやすいようです。
ギュッと握って、親指側にグイッとひねる
2008年に大工のYさん(当時55歳、男性)が「痛くてげんのうが持てない」と来院しました。病院でテニス肘と言われたそうです。(症例49「ぎっくり肋間筋」と、症例55「ガングリオン」にも登場しています)
げんのう(金槌)をギュッと握って、小さな釘の頭に正確に打ち込むのは、力のいる複雑な作業です。年末で仕事が忙しかったので、筋肉だけでなく腱にも痛みがありました。痛みのある筋肉にびっしりと深い鍼を置鍼し、透熱灸もしました。来院は4回。自分で毎日カマヤミニでお灸をしたそうですが、治ったのは仕事がひまになってからで、2ヶ月ぐらいかかりました。

Mさんは1998年からの患者さんで、首肩こり腰痛ぎっくり腰捻挫ひざ痛などいろいろな愁訴でやって来ましたが、2011年(64歳)、テニス肘になってしまいました。(症例15「角化症」にも登場しています)
落ち葉を箒で掃いたのがきっかけだそうでうす。2ヶ月前に発症して以来、動作痛だけでなく、「じっとしていても、肘が冷えてジンジン痛い」とのことでした。(私も「冷え」には悩まされました)
すぐに治ったはずでしたが、2週間後、「痛みは前ほどじゃないけれど、落ち葉を掃いたらまた痛くなった」と来院しました。
働き者なので、悪いとわかっても家事はやめられません。何度もぶり返して、半年後(9回目)にやっと完治しました。自分も含めて「主婦のテニス肘は手ごわいなあ」とあらためて感じた次第です。

短橈側手根伸筋()は、親指と人差し指をギュッと握って、力を入れてグイっと内側にひねる動作で酷使されます。「力」のいる「微妙な」動作を、外果を支点に行うことが原因です。

短橈側手根伸筋
力をこめて、
親指側にひねる
共同腱の伸筋たち
に過負荷が連鎖
上腕の屈筋、
前腕の屈筋、回内筋

隣を走行する総指伸筋()にも障害が及んでテニス肘が悪化します。橈骨を前後ではさんで、前腕の屈筋()である橈側手根屈筋や腕橈骨筋、長掌筋にも過負荷がかかります。かばって働く他の筋肉たちに硬直が波及していくのです。
釘を打つために金槌を振る、バイクのアクセルを開ける、包丁をグイっと握って硬いものを切る、箒で掃く、炒め物をする、などで酷使されます。
共同腱が剥がれて?重症化した私
それまでの患者さんがわりと簡単に治ったので、2009年に私がはじめてテニス肘になったときは「敵」の怖さをぜんぜん知りませんでした。
はじめは痛みもそれほどでもなく、テーピングをすればなんとかテニスもできました。簡単な鍼は毎日打っていましたが、ちっとも良くなりません。だんだん重いようなイヤーな痛みに変わって行ったので、さすがに私も、「やっぱり、テニスは休んだ方がいいな」と思いはじめました。

クラブは休めても、市民コートがありました。私が行かないと友人ひとりになってしまいます。『バック・ハンドだけ』のつもりだったのですが、「そのボールをバックに回り込んで打つのは変だろう」と言われ、フォアで打った瞬間にツツツッーと、肘から前腕に向かって細い糸が伝わるように、何かが走りました。そしてもう1回。10センチぐらいの長さでした。
後日現れた患者さんに「剥離骨折」を起こした経験があると聞き、それだったのかな?と思いましたが、総指伸筋()に移動した後にも同じ「剥がれた」感触を味わいました。共同腱がはがれてしまったのだろうと推測します。

そこから地獄のような日々がはじまりました。ぎっくり腰をこじらせたときと同じ、モヤモヤと毒ガスを発する沼が肘の奥にできたみたいでした。
こぶしをギュッと握ろうとすると、前腕全体の筋肉が収縮するので、激しい痛みで力が入れられません。荷物どころか犬の紐も持てません。ついには自分の腕の重みも耐えられないほどに悪化しました。犬のリードを左手で持ち、ジャケットのボタンの間に右腕を入れて、腕を吊ってお散歩をしたこともあります。
家事が一番腕を酷使しましたが、やらないわけにはいきません。包丁を使う、水道の蛇口をひねる、炒め物をする、ご飯をへらでかき回す、ナベを磨く、掃除をする、などの動作が一番こたえました。
仕事でも腕を使うので、腕を休ませる時間はまったくありませんでした。
ふとした拍子にペリペリペリと細い糸のような感触が走ります。肘を曲げて親指側に手首をひねるとき、腕を伸ばして物を取るときにペリペリが起こりました。
ペリペリのあとは悪化して症状が舞い戻ります。治りかけた腱がまた剥がれる、そんな感触です。

発症から2ヶ月後、やっとラケットを握れるようになりました。右手でテニスは無理だけど、足腰だけでも鍛えておこうと、左手で壁打ちをはじめました。
発症から半年後、短橈側手根伸筋()がやっと治ってくれました。怖くて打てないので、スクールに復帰してフォームをみてもらいました。
右手でも普通に打てるようになったのですが、スクールにクラブにサークルと、いきなりやり過ぎてしまいました。1ヶ月後にバックハンドを打つときに、違和感を感じるようになりました。
がんばっていた総指伸筋()が悲鳴を上げたのです。
私がはじめて「テニス肘」の治療をしたのは大工のNさんです。開業したての頃からの患者さんで、逞しい筋肉に比して関節の強度が足りないため、よくあちこちの関節を痛めました。「あっちが痛い、こっちが痛いと、しょっちゅう仕事を休むから、昔はうつ病なのかな?と思っていた」と親方が言ったほどでした。
1996年11月(43歳)、「普段は何ともないが、げんのうを持つと右肘が痛い」とのことでした。1ヶ月前に右腕が上げられなくなって、そのあと右肩の関節痛がしばらくつづいたそうです。肩をかばって無理をしたせいで、右肘を痛めてしまったのでしょう。
本人の愁訴と筋肉の硬直から、総指伸筋()を中心に治療をしました。私が自信たっぷりに「ほら、治ったでしょ」ときいたら、「重いものを持ってみないとわからない」と言うのです。
重いものを探して持ってもらったのですが、テープカッターを「わしづかみ」した瞬間に、「イタタッ!」と落としそうになりました。
筋肉を治療をして『治ったはず』と思い込んだ私は青ざめてしまいました。
その後も右肩と連動して時々痛みが出ましたが、1ヶ月ぐらいでわりと簡単に治りました。

1998年8月来院のKさん(当時56歳、男性)も大工さんです。工務店の社長なので現場にはめったに出ません。病院で、「ゴルフをやっているのに、テニス肘と言われた」、とのことです。週に何回もゴルフに行く他、毎日欠かさず、素振りの練習していていたそうです。
お母さんに輸血が必要になったときも注射を拒否したほどの「針嫌い」でしたが、ゴルフのためならと意を決してやってきたのです。
Kさんが痛めたのは左腕でした。「縮めるときじゃなく、伸ばすときに痛む」、つまり、ゴルフのフォロースルーで総指伸筋()を痛めたのです。
全身治療は初回だけで、左肘だけの治療を1日おきに行いました。4回の治療で「2日間、痛みなくゴルフができた」そうです。

テニスの片手バックハンドとゴルフのスイングは、手の甲側、肘~手首~指先へとつながる総指伸筋()を使います。大きなものを「わしづかみ」するときにも使います。

テニスの片手バック
右手の甲、裏側で
ボールを打つ
ゴルフのスイング
(右手で押さずに)左手で引っぱって打つ
わしづかみ
指を大きく広げて、大きなものをつかむ

威力と距離をだすために力んで打つと過負荷がかかります。しかもコースを狙うのでとても微妙な動作です。
ボールを打つときには、ラケットやクラブのグリップをギュッと「握る」=手の平側の屈筋に力が入ります。同時に、手の甲側の伸筋で引っぱるように押し出します。「握る」と「広げる」がコラボするのです。
「パー」+「グー」+「力」+「微妙」がコラボ
手首をそらして指を広げるとき=「パー」では、総指伸筋()が働きます。
手を握る=「グー」では、前腕内側()から指につながる浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋などが働きます。
思いっきり「グー」と思いっきり「パー」を同時にやって、「微妙」で「力」のいる動作をするときに総指伸筋()が酷使されます。

総指伸筋
手首をそらす、指をそらす
「わしづかみ」で物を掴む
共同腱の伸筋たち
に過負荷が連鎖
前腕の屈筋
に過負荷がかかる

私のテニス肘はたったの1ヶ月で再発してしまいました。短橈側手根伸筋()とは違うラインで、痛みも軽度でしたが、フォアハンドで懲りたので、テニスはまた休むことにしました。
でもその頃、家の模様替えにこっていました。1人暮らしになったので、日当たりのいい南側の部屋を居間と寝室に改造することにしたのです。
天袋に放り込んであった段ボールを引っぱりだし、古本をまとめて結わえて捨て、家具の移動を行いました。重いものをたくさん持ったのです。
ペンキを塗る前には、シールをはがしてゴシゴシこすって、下地をきれいにしなくてはなりません。ふすまの張替えでは、ハサミやペンチ、金づちなどを使います。ぜんぶひとりでがんばりました。

カーペットを敷くために机を持ち上げた瞬間に、ペリペリペリッとまた細い糸のようなものが走る感覚がしました。「また腱がはがれた!」と感じました。
バイクのカゴから重いものを持ち上げるとき、たすき掛けにしたバッグやポシェットを首からはずすときにペリペリがおこりました。腕を水平より高く上げて、肘を曲げたまま、物を持ち上げる動作です。

ハサミを使う動作がいちばんこたえました。手を大きく広げたり縮めたりをくり返します。微妙な動作をするために総指伸筋()が酷使されます。そのときは平気なのですが、翌日になって肘がズシーンを重くなり、痛みが悪化したことがわかりました。左利き用のハサミを買ってしのぎました。
ついに模様替えを中断することにしました。ペンキ塗りは息子たちに頼み、ふすまの張替も途中でやめました。
日常生活ではほとんど痛みがなくなりましたが、仕事でも家事でも手を使うので、障害の波及はまだまだつづきました。
最後は肘頭~小指側の筋肉が硬直する
だんだん肘関節が固まった感じになっていき、尺骨をはさむ筋肉の硬直が強くなりました。

小指伸筋
小指をそらす
尺側手根伸筋
力をこめて、手首をそらす&小指側に曲げる
共同腱の伸筋たちと肘頭にも過負荷が連鎖

肘頭()をはさんで
外果()から尺側手根伸筋(
内果()から尺側手根屈筋(
尺骨に沿って硬直し、上からおおう上腕三頭筋()も緊張が及ぶ
*肘関節が固まって「冷え」てしまう

テニスのスライスでは、上からラケットを振り下ろしてから、小指側で引っぱって逆回転をかけます。サーブを打つときも、野球のピッチングのときも、肘の尺側から小指につながる筋肉()を使います。

スライス
小指側に引っぱってスライス回転をかける
サーブ
尺側の筋肉でラケットを引き上げる
ピッチング
尺側の筋肉を酷使すると「野球肘」が起こる

包丁で切るときなど「下に押す」とき、何かをつかんで思いっきり「手前に引く」ときにも尺側の筋肉()使います。(仕事で鍼を磨くときの動作です)

スライス、サーブ、ピッチングは空手チョップ
上から下へ、包丁を押す
手を握って、力をこめて後方に引く

何よりつらかったのは「冷え」でした。季節も冬になって、右肘から手首まで冷えに冷えました。右肘だけにふかふかのサポーターを巻くと、左肘とのバランスがちょうどになります。厳しい冷えに悩まされ、温泉に行きたい人の気持ちが骨身にしみてわかりました。
雨や台風の2日前には右腕がズシーンと重くなって、イヤーな痛みがぶり返します。気圧が下がりはじめると、血管が拡張して血圧が下がり、末端まで血が届きにくくなります。障害物があると、渋滞している道路のように血流が滞ってしまうのです。下がり切ってしまうと痛みがやわらぎ、「台風が去るな」と分かります。
(治ったあとも1年ぐらいは天気予報ができましたし、夏でもサポーターが手放せませんでした)

ほぼ1年かかって、やっとテニス肘が治りました。でもテニスを再開して2ヶ月で手首を痛めました。肘から指先までつながる筋肉は手首を通っています。『手首痛なんて簡単に治るはず』とあなどっていたのですが、ラケットを握れるようになるまで3ヶ月もかかってしまいました。テニス肘の後遺症だったのです。
後遺症は他にもあります。左手でテニスをし、重いものはすべて左手で持つという生活が1年もつづいたので、骨盤が歪んで、左腰がせり上がってしまいました。その後、左のギックリ腰を何度もくり返したのです。
ほんとうに「テニス肘」はあなどれません。
「マウス肘」も腕全体に硬直が波及する
今年のはじめから新しいパソコンと格闘することになりました。いったんハマるとどうにも止まらない性格なので、マウス仕事に没頭していました。
だんだん右腕に疲労が蓄積していきました。『治療をしなくちゃ』と思いつつも、仕事場に来るとパソコンに直行し、あっという間に夜中になってしまいます。

2月の終わり、テニスの途中で右前腕()に、ラケットを持てないほどの激痛がおこりました。でも腕をマッサージすると、痛みがスーッと消えるのです。そんなことが2回ありました。

3月にぶっつけ本番でシングルスのラウンドロビンに参戦しました。3試合目の途中で前腕の後面に木の棒()のような硬直が出現しました。
あわてて治療をしましたが、時すでに遅しで、そのまま総指伸筋()のテニス肘がはじまったのです。
前兆
バクハツ

数日間テニスを休んだのですが、運動しないと身体のあちこちが硬くなってしまいます。試しに壁打ちをしてみたら、フォアのスピンは普通に打てます。両手バックハンドは左手で打つので問題がありません。
女ダブに入れてもらいました。片手バックハンドは怖くてラケットが出ません。サーブとボレーはちょっと怖いけどとりあえず打てます。
軽めのテニスをすると肘がほぐれて痛みがやわらぎ、やりすぎると肘への過負荷でちょっと悪化します。そのくり返しでした。

私はグリップを握ったまま、中指をレバーにかけて走ります。中指1本でブレーキをかけるときに、総指伸筋()に痛みが出ました。
短橈側手根伸筋()を痛めたときはアクセルを開けるときに痛みが出たので、ラインが違うことがわかります。
ちなみに、肘を押し下げてアクセルを開けるときは、尺側手根伸筋()に負荷がかかります。
バイクのブレーキング

総指伸筋()は短橈側手根伸筋()に比べて、症状も軽く、日常生活ではほぼ問題なしでした。でも『治ったかな?』と思った日、動けないおばさんと組んで、何でも返す男性とミックスのようなダブルスをやったら、肘への衝撃が激しすぎてまた悪化してしまいました。適度にやるのは難しいのです。
右手指を大きく広げられないことが一番やっかいでした。手の平は知覚神経が密集しているので、鍼がとてもとても痛いのです。
左手は普通に「パー」が開けるのに、右手で「パー」をしようとしても、手の平や指が生き物のように勝手に動いて、縮もう、縮もうとするのです。

3月に申告を済ませたあと、しばらく放っておいた経理をすることにしました。
弥生会計の「簡単入力」では、マウス操作でほとんどのデーターの入力ができます。
簡単どころか、手が魔物に乗っ取られたように「こわばり」が広がっていき、不快な痛みで息も絶え絶えになってしまいました。
指でクリックするときは前腕内側の屈筋()、浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋などを使います。
甲側にある総指伸筋()がわしづかみで緊張し、指を上げる動作で酷使されます。
屈筋
伸筋

1年分のデーターを1週間で入力したことが「マウス肘」に拍車をかけたのでした。中指に痛みが集中していたので、スクロールのせいかと思っていましたが、元凶は「わしづかみ」での共同作業だったのです。

マウス操作で酷使される筋肉は他にもあります。
マウスをつかんで親指側に動かすときは短橈側手根伸筋()を使います。
小指側に動かすときは尺側手根伸筋()を、手前に引くときは尺側手根屈筋()を使います。

マウスを前後左右に「微妙」に動かすときは腕全体の筋肉が、アクセルとブレーキを同時に踏むような、繊細な巧緻運動をしているのです。
その圧は肘頭に集約されます。
「マウス肘」

総指伸筋()の障害がやわらいでいくにつれ、硬直が肘頭周辺に移行しました。尺側手根伸筋()の過緊張が、尺骨をはさんで内側を走行する尺側手根屈筋()に波及します。上から肘頭をおおう上腕三頭筋と一緒になって、肘関節を絞めつけます。血行不良で「冷え」ることを追体験しました。
そのうえ、重いものをすべて左手で持ったおかげで骨盤が歪み、左腰のギックリ腰になるという追体験までしてしまいました。

人間=ホモサピエンスは、他の動物と違って前頭葉が大きく発達しています。前頭葉には思考、理性、やる気などの「知性」と「言語野」「運動野」などがあります。運動野でもっとも広いのは、繊細な動きをする手や指に関する部分です。どれも人間だけが持っている特性です。
骨格や筋肉の構造は他の動物とほとんど同じなのに、人間は道具を使っていろいろな作業やスポーツをするようになりました。器用な動作を要求されるのに、構造的に無理が生じてしまう。それで「テニス肘」などの様々な運動障害が起こるのでしょう。

3回目のテニス肘になって「敵」の実態が明らかになったのは、鍼灸師としては喜ばしいことですね。テニスプレーヤーとしては涙、涙ですが、かつて辿った道のりなので、順調に回復しております。
テニス肘のテーピング
テニスをするときには、2.5センチ幅のキネシオ・テープを使います。伸縮性のあるテープを(少しだけ)伸ばして貼ると、テープが縮もうとするので筋肉の収縮を助けます。筋肉の走行に沿って貼るのがコツです。可動域を維持したまま、筋肉をつけながら治すことができます。
テニス肘では「痛み」があるときはスポーツはご法度です。「ちょっと怪しいな」というときの予防と、治ったあとの再発予防で使います。
仕事や家事など、どうしてもやらざるを得ないときには、5ミリ幅ぐらいに細く切ったテープを貼ってあげると補助になります。お灸の痕の水疱やかさぶたがあっても、よけて貼ることができます。

A=外果を守る(①もしくは②)
短橈側手根伸筋()、総指伸筋()、もしくは両方にまたがって貼る。
総指伸筋()と尺側手根伸筋()にまたがって、外果と肘頭の間~尺骨に沿って貼る。
B=肘頭を守る
内果と肘頭の間~尺骨の外側に沿って、尺側手根屈筋()を補強する。

C=橈骨をはさんで過負荷がかかる内側を守る
テープAと組み合わせて、前腕の屈筋()=橈側手根屈筋や腕橈骨筋、長掌筋を補強する。
D=(必要な場合に補助として使う)
内果の内側~尺骨の内側に沿って貼る。

*治りかけにやったテーピング
ボールの衝撃で肘関節がガタついた感じになりました。
E=患部の総指伸筋()に沿って
ここにまず1本。テニスをしながら様子を見てテープを追加。多すぎると逆効果でした。
F=肘関節を表裏で支える
前腕の屈筋()の補強を兼ねて、内側から肘関節を補強しました。

エルボーバンドはNG
筋肉の収縮を制限して、痛みが起こらないようにするのが目的ですが・・・
急性期、たとえば試合の途中でやむおえないときに応急処置として使うのは致し方ないかもしれませんが、筋力が落ちてしまうし、可動域も狭まります。
これもざっとですが、上述した筋肉をもうちょっと詳しく紹介します。

上腕二頭筋、上腕筋
橈側手根屈筋、腕橈骨筋、長掌筋、円回内筋、回外筋
浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋
尺側手根屈筋
前面
後面
上腕三頭筋
短橈側手根伸筋
総指伸筋
小指伸筋
尺側手根伸筋
長橈側手根伸筋、長母指外転筋、短母指伸筋、長母指伸筋、示指伸筋


肩から肘関節を通過する筋肉
筋肉 起始 停止 神経 作用
上腕二頭筋 肩甲骨 橈骨粗面 筋皮神経 肘を曲げる(屈曲)、回外
上腕筋 上腕骨 尺骨粗面 二頭筋の屈曲を補助
上腕三頭筋 肩甲骨&上腕骨 肘頭 橈骨神経 肘関節を伸ばす


主に肘・手首・手指を曲げる筋肉
筋肉 起始 停止 神経 作用
橈側手根屈筋 上腕骨内側上顆 第2・3中手骨底 正中神経 手首の屈曲と撓屈、前腕の回内
長掌筋 内側上顆 手掌腱膜 手関節の屈曲
円回内筋 上腕骨&尺骨 橈骨 肘の回内、屈曲
腕橈骨筋 上腕骨 橈骨 橈骨神経 肘の屈曲、半回内、半回外
浅指屈筋 内側上顆&尺骨 第2~5中手骨底 正中神経 2~5指の屈曲、手首と肘の屈曲補助
長母指屈筋 橈骨体前面、前腕骨間膜 母指 正中神経 母指の末節を屈曲
深指屈筋 尺骨体前面、前腕骨間膜 第2~5末節骨底 正中 2~5指の末節を屈曲
尺骨
尺側手根屈筋 内側上顆&尺骨 豆状骨、第5中手骨 尺骨神経 手関節の屈曲、手首の尺屈補助


主に肘・手首・手指を伸ばす筋肉
筋肉 起始 停止 神経 作用
長橈側手根伸筋 上腕骨外側上顆 第2中手骨底 橈骨神経 手首の伸展と撓屈
短橈側手根伸筋 外側上顆
総伸筋腱
第3中手骨底
総指伸筋 外側上顆
総伸筋腱
第2~5指の中節骨と末節骨 指の伸展、手首の伸展
小指伸筋 外側上顆
総伸筋腱
第5指の指背腱膜 小指の伸展
尺側手根伸筋 外側上顆
総伸筋腱
第5中手骨底 手首の伸展と尺屈
長母指外転筋 橈骨&尺骨&骨間膜 第1中手骨底 母指と手首の外転
短母指伸筋 橈骨&骨間膜 母指基節骨底 母指の伸展
長母指伸筋 尺骨&骨間膜 母指末節骨底 母指の伸展
示指伸筋 尺骨&骨間膜 第2指の背側腱膜 示指の伸展
回外筋 外側上顆&尺骨 橈骨 前腕の回外
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Updated: 2022/5/12 <初版 2012/4/28